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別にもういいだろう
関わることもないんだから―――
何をギョンは必死になっているのやら・・
もしかして、あいつがギョンのいう白鳥ってやつか?
いや… それなら態々、この僕を勉強会ってなものに
連れていかなくても良かっただろうに…
その日の放課後、僕は図書室には行かなかった。
幾度となく、僕の携帯はポケットの中で着信を知らせる。
本当は電源を落としてしまいたかったが、立場上、それができない僕は設定を変えた。
そして荷物を手にとると言われた場所へと向かうことなく校門へと向かう。
僕は車へと乗り込むと、背凭れに深く身を預け、眼を閉じた。
それにしてもギョンまでもがあの場所にいたとはな・・
僕は何を焦っていたのだろうか…
プロポーズ――
普通はあんな所ではしないよな
誰が来るかもわからないような場所…
現に2人の人間に立ち聞きされた訳だし・・
ふって湧いたような婚姻話に、ほんの少しばかり反抗してみたかったにすぎない。
もしヒョリンが受け入れていたとしても、僕の人生が変わることはない
そんなことはわかりきっていたんだから・・
『殿下・・ 殿下…』
一向に耳を傾けようとしない僕に、モニターの向こう側
コンが本日の予定を告げるべく呼びかけていた。
『如何なされましたか。 どこか具合でも――』
「いや… なんでもない。」
小さく首を横に振ると、背凭れに深く押し込めていた身体を少しばかり起こす。
「・・で、今日の予定は?」
その後、慌ただしく時を過ごし、ふと携帯に触れる。
着信はあれど一向に震えぬ携帯は多くの着信履歴を残している。
フッと僕は息をついた。
一応は気を使ったのだろうか…
時間の間隔は規則的で、少しずつ間が開いていっている。
そして最後は諦めたのだろうか・・
長いメールが一通入っていた。
読むのも面倒くさい
僕は履歴からボタンを押した。
「おぉっ! シンっ!」
耳から電話を遠ざけたくなるほどのウザい声
「一体、何の用だ、ギョン。」
ギョンの用件なんて予想はできる。
どうせ、あの団子頭のジャージ女のことだろう。
「何の用だって…
おまえ、親友に対してそんな言い方はないだろう~。」
「用がないのなら切るぞ・・。」
「お・・おいっ! あ―――、信じられねぇ…。」
「一応、メールにも入れといたんだが、明日もう一度、シンに謝るチャンスをやる!」
あぁ、やっぱりその事か…
シンはギョンの話に耳を傾けながら、今日の事を思い出す。
完全な僕の思い込みから彼女を責め立てた。
俯きがちにギュっとエプロンを握りしめる彼女に僕は更にきつく―――
なのに彼女は今度は真っ直ぐに僕の顔をみて・・
あの態度で気づくべきだった
偽りなど言いそうにもないあの瞳
少しばかり気が強そうで、曲ったことは嫌いなタイプ…
なのに――
何故、あの後・・
黙り俯いた
友人が駆けつけてきたというのに
文句どころか、弁明のひとつもせずに…
それどころか泣くのをジッと耐えていたような・・
何故だ…
冷静になって考えてみれば不可思議に思えることがいくつかあった。
「おい、シン! ちゃんと聞いてるんだろうなっ!」
相槌もないシンに不安に思ったのか、ギョンが確認する。
「あぁ・・。」
本当は何も聞いてはいない。
「とにかく、ちゃんと謝ろう。
おまえが悪いんだから――
このままじゃ、俺の人間性までも怪しまれるだろぉ~。
俺だってさぁ・・。」
まだまだ話し続けそうなギョンにシンは
「用件はそれだけか?」
「・・・ ん・・ま・・そうだけど…。」
冷たいシンの声に押され気味のギョン。
いやいや、俺はもっと話したいんだ。
何故に俺はおまえに明日は必ず来て欲しいのかを――
俺の愛しの白鳥の話をだなぁ・・
「じゃあ、切るぞ。」
「えっ… え―――――――っ!
とにかく、明日! ちゃんと来いよ、絶対だからなっ!」
今にも電話を切りそうなシンにギョンは慌てて、もう一度だけ念を押す。
「あぁ・・考えてはみる。」
「はぁっ? 考えてはみるって―――。」
聞こえるのは無情な機械音のみで… ギョンは大きくため息をついた。
翌日、登校してみればギョンのウザいほどの強い視線を感じる
ったく・・
そうは思うものの口に出して言うこともなく、
僕はいつも通り、雑誌に視線を向ける。
周りで話すインやファンの声に耳を少しばかり傾けながら…
ギョンの方も、あまりしつこく言い過ぎても僕には逆効果だということや、
インやファンの手前もあるのだろう、口に出して言うことはなかった。
ただ1度だけ、ファンたちに気づかれないように
耳元で時間と場所を念押ししてきた以外には――――
昼休みになり、言われていた時間が近づいてきていた。
僕は約束の場所へ行くつもりだった。
だが、そのタイミングでインに捕まった…
話をはぐらかすにも、少しばかり切羽詰まった頭には何も浮かばない。
暫くして、痺れを切らしたかのようにギョンが教室を飛び出していく。
「なんだ・・あれ…?」 呆れた風にインとファンがギョンの背中を見た。
その隙に僕は席を立つ
『カタン・・』 立ちあがった際の椅子の音にインとファンの視線が僕へと戻る。
気拙さが顔に出る。
だがイン達はあえて僕には何も言わず、2人で話し始めた。
僕はそのまま教室を出た。
その時の僕はそんな2人を疑問に感じながらも、約束の場所へと歩を進めていた。
イン達にとっては今までから変わらないことだったんだ
僕はヒョリンに会う時はいつも別段、何か言うわけではなく姿を消したから・・
走れない僕は少しばかり遅れて約束の場所についた。
だがそこには二人以外にもう一人いたようで…
僕は咄嗟に物陰へと姿を隠してしまった。
聞こえる話し声・・
ギョンが彼女に謝っている
彼女はそんなギョンを責めるわけでもなく――
『っていうか… じゃあギョン君は、私が殿下のこと―――。』
ん?
殿下・・・?
僕の事が語られている?
僕はジッと耳を傾けた。
そしてギョンの言葉を聞いた時、僕は驚きで声が出そうになり、慌てて口元を覆った。
「ウソだろう…」
まるで恋を知らない中学生の様に僕の胸は高鳴った。
皇太子という立場上、女の子にキャーキャー言われたり、
騒がれたりするのは慣れているつもりだった。
だが・・ この不意打ちの様な告白は―――
「プロポーズぅ~~~~!」
この素っ頓狂な声に、僕は現実の世界へと引き戻される
ギョンの奴・・
不可抗力だ・・とも思うが…
この調子で僕の事はコイツの口によって広められるのだろうか・・
僕は長く息を吐き出した。
ギョンの口に何を詰めてやれば黙らせられるか…
そんな事を考えていたら、3人と鉢合わせするはめになってしまった。
彼女の顔を見たら、急にさっきのギョンの言葉が脳裏をかすめ…
思わず視線を逸らしてしまった。
取りあえず、謝罪の言葉を口にしてみたけれど―――
自分でもあり得ないだろうと思えるほどの失態にその場を足早に立ち去ってしまった。
「お・・おいっ… それだけかよっ。」
チラチラとチェギョンの方を振り返りながら、ギョンは僕のあとをついてくる。
「もうちょっと他にも言い様があるだろう―――、なぁ、シンっ!」
「ウザいっ!」
あぁ―――、マジでウザい
僕が後悔してるのがわからないのか… コイツ・・
そう… 僕は初めてだったんだ
間接的でも、告白の様な事をされるのが・・
ヒョリンはそんな感情を言葉にすることはなかったから