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my lovely cupid 7.5

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別にもういいだろう
関わることもないんだから―――
 
 
何をギョンは必死になっているのやら・・
 
もしかして、あいつがギョンのいう白鳥ってやつか?
いや… それなら態々、この僕を勉強会ってなものに
連れていかなくても良かっただろうに…
 
その日の放課後、僕は図書室には行かなかった。
 
幾度となく、僕の携帯はポケットの中で着信を知らせる。
本当は電源を落としてしまいたかったが、立場上、それができない僕は設定を変えた。
 
そして荷物を手にとると言われた場所へと向かうことなく校門へと向かう。
僕は車へと乗り込むと、背凭れに深く身を預け、眼を閉じた。
 
 
 
それにしてもギョンまでもがあの場所にいたとはな・・
 
僕は何を焦っていたのだろうか…
 
プロポーズ――
普通はあんな所ではしないよな
誰が来るかもわからないような場所…
現に2人の人間に立ち聞きされた訳だし・・
 
ふって湧いたような婚姻話に、ほんの少しばかり反抗してみたかったにすぎない。
もしヒョリンが受け入れていたとしても、僕の人生が変わることはない
そんなことはわかりきっていたんだから・・
 
 
『殿下・・  殿下…』
一向に耳を傾けようとしない僕に、モニターの向こう側
コンが本日の予定を告げるべく呼びかけていた。
『如何なされましたか。 どこか具合でも――』
 
「いや… なんでもない。」
小さく首を横に振ると、背凭れに深く押し込めていた身体を少しばかり起こす。
「・・で、今日の予定は?」
 
 
 
その後、慌ただしく時を過ごし、ふと携帯に触れる。
着信はあれど一向に震えぬ携帯は多くの着信履歴を残している。
フッと僕は息をついた。
 
一応は気を使ったのだろうか…
時間の間隔は規則的で、少しずつ間が開いていっている。
 
そして最後は諦めたのだろうか・・
長いメールが一通入っていた。
読むのも面倒くさい
僕は履歴からボタンを押した。
 
「おぉっ! シンっ!」
 
耳から電話を遠ざけたくなるほどのウザい声
「一体、何の用だ、ギョン。」
ギョンの用件なんて予想はできる。
どうせ、あの団子頭のジャージ女のことだろう。
 
「何の用だって…
 おまえ、親友に対してそんな言い方はないだろう~。」
 
「用がないのなら切るぞ・・。」
 
「お・・おいっ! あ―――、信じられねぇ…。」
「一応、メールにも入れといたんだが、明日もう一度、シンに謝るチャンスをやる!」
 
 
あぁ、やっぱりその事か…
シンはギョンの話に耳を傾けながら、今日の事を思い出す。
 
完全な僕の思い込みから彼女を責め立てた。
俯きがちにギュっとエプロンを握りしめる彼女に僕は更にきつく―――
なのに彼女は今度は真っ直ぐに僕の顔をみて・・
 
あの態度で気づくべきだった
偽りなど言いそうにもないあの瞳
 
少しばかり気が強そうで、曲ったことは嫌いなタイプ…
 
なのに――
何故、あの後・・
 
黙り俯いた
友人が駆けつけてきたというのに
文句どころか、弁明のひとつもせずに…
 
それどころか泣くのをジッと耐えていたような・・
 
何故だ…
 
 
冷静になって考えてみれば不可思議に思えることがいくつかあった。
 
 
 
 
「おい、シン! ちゃんと聞いてるんだろうなっ!」
相槌もないシンに不安に思ったのか、ギョンが確認する。
 
「あぁ・・。」
本当は何も聞いてはいない。
 
「とにかく、ちゃんと謝ろう。
 おまえが悪いんだから――
 このままじゃ、俺の人間性までも怪しまれるだろぉ~。
 俺だってさぁ・・。」
 
まだまだ話し続けそうなギョンにシンは
「用件はそれだけか?」
 
「・・・ ん・・ま・・そうだけど…。」
冷たいシンの声に押され気味のギョン。
いやいや、俺はもっと話したいんだ。
何故に俺はおまえに明日は必ず来て欲しいのかを――
俺の愛しの白鳥の話をだなぁ・・
 
「じゃあ、切るぞ。」
 
「えっ…  え―――――――っ!
 とにかく、明日! ちゃんと来いよ、絶対だからなっ!」
今にも電話を切りそうなシンにギョンは慌てて、もう一度だけ念を押す。
 
 
「あぁ・・考えてはみる。」
 
 
「はぁっ? 考えてはみるって―――。」
聞こえるのは無情な機械音のみで… ギョンは大きくため息をついた。
 
 
 
 
翌日、登校してみればギョンのウザいほどの強い視線を感じる
ったく・・
そうは思うものの口に出して言うこともなく、
僕はいつも通り、雑誌に視線を向ける。
周りで話すインやファンの声に耳を少しばかり傾けながら…
 
ギョンの方も、あまりしつこく言い過ぎても僕には逆効果だということや、
インやファンの手前もあるのだろう、口に出して言うことはなかった。
ただ1度だけ、ファンたちに気づかれないように
耳元で時間と場所を念押ししてきた以外には――――
 
 
昼休みになり、言われていた時間が近づいてきていた。
僕は約束の場所へ行くつもりだった。
だが、そのタイミングでインに捕まった…
話をはぐらかすにも、少しばかり切羽詰まった頭には何も浮かばない。
暫くして、痺れを切らしたかのようにギョンが教室を飛び出していく。
 
「なんだ・・あれ…?」 呆れた風にインとファンがギョンの背中を見た。
その隙に僕は席を立つ
 
『カタン・・』 立ちあがった際の椅子の音にインとファンの視線が僕へと戻る。
気拙さが顔に出る。
だがイン達はあえて僕には何も言わず、2人で話し始めた。
僕はそのまま教室を出た。
 
その時の僕はそんな2人を疑問に感じながらも、約束の場所へと歩を進めていた。
 
 
イン達にとっては今までから変わらないことだったんだ
僕はヒョリンに会う時はいつも別段、何か言うわけではなく姿を消したから・・
 
 
 
走れない僕は少しばかり遅れて約束の場所についた。
だがそこには二人以外にもう一人いたようで…
僕は咄嗟に物陰へと姿を隠してしまった。
 
聞こえる話し声・・
ギョンが彼女に謝っている
 
彼女はそんなギョンを責めるわけでもなく――
『っていうか… じゃあギョン君は、私が殿下のこと―――。』
ん?
殿下・・・?
僕の事が語られている?
僕はジッと耳を傾けた。
 
そしてギョンの言葉を聞いた時、僕は驚きで声が出そうになり、慌てて口元を覆った。
「ウソだろう…」
まるで恋を知らない中学生の様に僕の胸は高鳴った。
 
皇太子という立場上、女の子にキャーキャー言われたり、
騒がれたりするのは慣れているつもりだった。
だが・・ この不意打ちの様な告白は―――
 
 
「プロポーズぅ~~~~!」 
 
この素っ頓狂な声に、僕は現実の世界へと引き戻される
 
ギョンの奴・・
 
不可抗力だ・・とも思うが…
この調子で僕の事はコイツの口によって広められるのだろうか・・
 
僕は長く息を吐き出した。
 
ギョンの口に何を詰めてやれば黙らせられるか…
そんな事を考えていたら、3人と鉢合わせするはめになってしまった。
 
彼女の顔を見たら、急にさっきのギョンの言葉が脳裏をかすめ…
思わず視線を逸らしてしまった。
取りあえず、謝罪の言葉を口にしてみたけれど―――
自分でもあり得ないだろうと思えるほどの失態にその場を足早に立ち去ってしまった。
 
 
「お・・おいっ… それだけかよっ。」
チラチラとチェギョンの方を振り返りながら、ギョンは僕のあとをついてくる。
「もうちょっと他にも言い様があるだろう―――、なぁ、シンっ!」
 
「ウザいっ!」
 
あぁ―――、マジでウザい
僕が後悔してるのがわからないのか… コイツ・・
 
 
 
 
そう… 僕は初めてだったんだ
間接的でも、告白の様な事をされるのが・・
 
 
ヒョリンはそんな感情を言葉にすることはなかったから
 
 
 
 
 
 

my lovely cupid 8

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あぁ…マジでウザい―――
 
空気の読めない奴だとは思っていたが…
教室までの道すがら、ギョンの口は閉じることはなく・・
 
 
「はぁ――、やっぱ可愛いよなあ…
 こう・・なんていうの… 凛とした感じが、まさしく白鳥っていうか…。」
 
 
なに?
可愛い・・ 白鳥?
 
確かに… 可愛くないこともないかも・・だな…
ってか―― ギョン・・ やっぱり、おまえ… 彼女の事・・
 
もちろん、シンの脳内に浮かびあがっているのはガンヒョンではなくてチェギョンな訳で…
 
 
 
「他の奴に先越される前に、告っちゃった方がいいかな。
 あまり、まだ面識はないんだけどさ。」
「お友達からはじめましょう♥ なぁんてさ♪」
シンの事をガンヒョンに見立てて、手を差し出すギョン。
シンは軽くその手を叩く。
「いってぇ~ 何すんだよ、シン…。」
 
 
「・・・・・・。」
呆れて空いた口も塞がらないというのはこういうことを言うのだろう。
やっぱりギョンの白鳥ってのがあの団子頭で…
僕を勉強会なるものに連れていったのは、
僕を餌にして、彼女を呼び出すためで―――
「おまえってやつは…。」
 
 
「なんだよ… シン…」
軽く睨まれて、肩を窄めたギョン。
だがそれぐらいではめげないのが彼の持ち味な訳で――
「じゃあ、また放課後なっ♪」
 
 
「は・・?」
 
「なに、とぼけてるんだよ… 勉強会だろ、勉強会。」
 
 
「・・・・・・。」
この期に及んで、まだ僕を引っ張りこもうというのか。
「僕はもう行かないからな。」
 
 
「へ?
 え――――っ、なんで?」
「ってか、あんな最低な謝罪な上に、勉強会までブッチってどうなんだ?
 本当に悪かったと思うなら、勉強会に参加してもうちょっと態度で示すべきだろう~。」
 
 
「あのなぁ・・。」
ギョンに利用されるなんてまっぴらだ。
それに、どんな顔をして彼女と顔をあわせたらいいのやら…
 
 
「まぁ、顔があわせ辛いってのもわからないでもないけどさ。
 謝るには謝ったけど…あれじゃあなぁ・・。」
 
 
だから俺だって後悔してるだろうが―――
なんでこいつは人の傷口に塩を塗り込むような…
恨めし気にギョンを見るシン。
 
 
「でもさ、チェギョンってそんな小さなこと、気にしないタイプだと思うんだよなぁ…。」
「俺たちの周りにはいないタイプなんだよな・・ あっけらかんとしててさ
 俺たちの後ろにあるもんに媚びるわけでもないしさ♪」
 
 
「・・・・・・」
へぇ・・そうなんだ。
自分の事が好きだと聞いたからか、
チェギョンがどんな子なのか、少しばかり気になり始めたシン。
 
 
「チェギョンってさ、一緒にいるだけですっげぇ楽しいっていうか・・
 こう・・表情とかがくるくる変わって、
 大口開けてケラケラと笑ったり、アヒルみたいに唇をとんがらせて拗ねてみたり…
 数学で難しい問題を解いてる時は、こう眉間に皺をよせて、眉をハの字にさせてさ。」
 
 
「へぇ…。」
思わず、相槌を打つように声を漏らしてしまったシン。
 
そんなシンの反応にギョンの口角があがる。
「来るよな? 勉強会♪」
 
 
「・・行かない・・。」
 
 
「俺が赤点取って、夏休み、毎日のように補習へ行くなんて可哀想だと思わないのか?
 なんのために俺の家はビーチの近くに別荘があると思ってるんだ!?」
 
「・・・・・・。」
そんなもの…金持ちの道楽だろうが―――
 
 
「なぁ、シン… 俺達って友達だろう?」
 
「友達・・ね…。」 シラ~っとしたシンの視線。
 
 
「な…なんだ、その言い方は――。 まるで友達じゃないみたいじゃないか。」
ギョンはじゃれつくようにシンの肩に手を廻す。
 
 
 
 
だが結局、シンはあの日から一度も勉強会には顔を出さなかった。
ただシンは俺たちを放置するのは気が引けたのか、ファンに代理を頼んでいた。
ファンの教え方は丁寧で、俺もチェギョンも勉強の方はかなり好調で―――
でも、最初の目的はシンとチェギョンを引きあわせて、
チェギョンの恋を応援することだったのだから、そっちの方は失敗とも言える訳で・・
ファンが用事で先に帰ったのを機に2人きりになったギョンはチェギョンに謝った。
 
「ごめんな… シンの奴、連れてこれなくって・・。
 なんか、変にギクシャクさせちゃったっていうか―――」
 
「ううん。
 ギョン君は私の恋を応援しようとしてくれたんだよね。」
「ギクシャクも何も、私と殿下には接点すらなかった訳で…
 それに私はとっくに失恋してるんだし、ギョン君が気にすることはないのよ」
「それに、ファン君、教え方がすっごく上手で… 
 今回はいい点数がとれそうな気がするし・・  ギョン君には感謝してるわ。」
 
 
「失恋してるって言っても、まだ好きなんじゃないの・・シンのこと。」
 
 
「うん…。」
「でもさ、元々、どうにかなるかも… なんて考えてなかったから
 永遠の片想いってやつ…。」
俯きがちにクスリと笑ったチェギョン。
 
 
「チェギョン…。」
変に俺が近づけなかった方が良かったんじゃないか…
ギョンは珍しく後悔していた。
 
 
「だけどね、今度のテストで数学60点取れたら、
 この気持ち、ちゃんと伝えてみようかと思うの。」
チェギョンは決めていた
あの倉庫でシンが話を立ち聞きしてしまったんじゃないかと思った日に―――
伝え聞きみたいに知られてしまうよりは、自分でちゃんと伝えてみたいと・・
 
 
「へ・・!?」
 
 
「どうせ失恋したんだし・・。」
「でも、まずは60点とれるかが、問題よねぇ?」
 
 
「俺、絶対、チェギョンなら、とれるような気がする!」
 
「そう?」
 
「あぁ!」
「俺も、今度のテストで60点以上取れたら、告白するっ!」
 
 
「へ… ギョン君?
 ギョン君も好きな子がいるの?」
 
 
「えっ… あぁっと――― まぁ。」
照れくさそうに頭をガシガシッとかいたギョン。
 
 
「へぇ~。」 興味津々でギョンを見るチェギョン。
「この学校の人? それとも・・。」
 
 
「実は、俺・・ ガンヒョンさんが好きなんだ…。」
 
 
「ふえっ…  え――――――っ!」
大声をあげ、眼をパチクリと瞬きするチェギョン。
 
 
「そ…そんなに驚かなくったって・・。」
 
 
「だ・・だって、まさかそんなに身近なとこに…。」
 
 
「チェギョンだって一緒だろ…。」
 
 
そう言われてみればそうである・・
互いの友達の事が好きだなんて…
「だよね・・。」
はぁ―― でも、ビックリしちゃった。
まさかギョン君がガンヒョンの事が好きだなんて
「でも、一体いつから?」
チェギョンは疑問を口にした。
 
 
「チェギョンと初めて勉強会をしたあの日、偶然、見かけたんだ・・ 
 一目ぼれだった。」
 
 
「そうなんだ…。」
「でも、じゃあ、なんで私に言わなかったの?
 聞きたいこととか、いっぱいあったんじゃない?」
あまり付き合いは長くはないがギョンの性格はなんとなくでもよくわかるチェギョン。
 
 
「そりゃ~山ほどあったさ。」
「でも… それって、なんか交換条件みたいじゃん・・。」
「俺がシンとの間を取り持つから―――って。」
 
 
「ギョン君ったら・・」 チェギョンは呆れた風にひと呼吸置く。
「もぉ――― そんな風になんて思わないわよっ!」
チェギョンはムッと唇を尖らせて、ギョンの肘のあたりを軽く叩くと視線を横にずらす。
「まっ・・取りあえず・・ガンヒョンは今のところはフリ―だから…。」
 
 
「好きな人とかはっ!」ここぞとばかりに食いつくギョン。
 
 
「聞いたことはないかな…。」
特定な人の名前は聞いたことはない。
ただ、好きなタイプは・・ ギョン君とは違うような…
考えるふりをして指で眉尻をかく。
 
 
「うおぉぉぉっ… よっしゃ―――あ!」
両手をあげ、ガッツポーズをするギョン。
 
 
「ちょ・・ちょっと、ギョン君!」
まだチラホラと人影のある校舎内。
視線が集まる。
 
 
「え・・」 
 
「取りあえずは、ほら・・60点… とらないとね。」
 
「あぁ… そうだよな。」
正直60点とらなくても告白はしたい。
でもチェギョンの勢いに乗せられていってしまった以上は頑張るしかない。
あげていた両手を下ろし、両頬を気合いを入れ直すかのようにパンパンっと叩くギョン。
「頑張らなきゃな、お互いに!」
 
「うん。」
 
 
赤点、追試、補習の常連である俺達が60点をとるなんて奇跡的なことかもしれない。
60点なんて言わずに、せめて半分の50点とかにすればいいのに・・
いや… 赤点脱出でOKじゃないのか?
なんて、正直、思ったりもする。
でも目標を高く設定したのは、チェギョンなりに
シンに認めてもらいたかったんじゃないかと思う。
初めてあった時に、公式さえもテンパっててでてこなかったチェギョン。
シンに『教わる以前の問題だ』って言われて、随分と落ち込んでいたもんな…
 
どうにかしてやりたい
そう思うのに――  俺がチェギョンにしてやれることって
 
 
「ギョン君、アジャアジャ、ファイティンよ♪」
 
 
キュッと軽く拳を作って、小さくガッツポーズを決めたチェギョンをみて
ギョンは思った
俺に出来る事なんてないのかもしれない・・と。
 
きっとチェギョンはもう泣いたりはしない
例え、シンにこっぴどく振られたとしても―――  そう・・思えたから
 
 

my lovely cupid 9

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あんなにもウザかったギョンが、何も言ってこない。
そればかりか休み時間までも勉強している時がある・・
一体、何があったんだか…
休み時間、雑誌のページを捲るシンの手が止まる。
 
 
「はぁ―――、そんなにも水着なお姉ちゃんと戯れたいのか・・ギョンの奴。」
呆れたようにギョンの背中を見つめながらインが呟いた。
「どうせ振られるだけなのに…
 ひと夏のアバンチュールなんて、甘い夢を見てるんなら、無駄だぞ、ギョン。」
 
そんな冷やかしの声にも耳を傾けることなく、ギョンはペンを走らせる。
 
「あぁ――― マジでつまんねぇ・・」 インはふらりと席を立ち、教室を出ていく。
 
 
そんなインに構うことなく、ファンはいつも通り、シンにカメラを向け、まわしている。
そしてインが席を外したと同時に一人ごとを呟くかの如く話しだす。
「ギョンの奴さぁ、今度のテストで数学60点以上取ったら、告白するんだってさ…。」
 
 
「・・・・・・。」
なに・・?  思わず雑誌から視線を外し、ファンを凝視したシン。
 
 
「驚いた?」
「俺も驚いた。 60点なんて無理だろ~って」
赤点・追試・補習の常連のギョンだ
「だけどさ、それよりも何がギョンをあれほどにまで駆り立てるのかってね。」
「今までだったら、告白だなんて畏まらずに、速攻で、かる~く告って撃沈してたのにな。」
「それだけ、今回は本気ってことなのかな…。」
 
 
「・・・・・・。」
 
 
「あっ… 今の話、インには内緒ね。
 変に冷やかし半分で応援されたくないだろうし・・
 今回ばかりは、俺もギョンのこと、ちゃんと応援してやりたいから。」
「本当は俺にも言いたくなかったんだろうけど、藁にもすがる気持ちだったんだろうね。」
ファインダー越しにシンを見ながら、ファンは話を続ける。
「ところでさ、シンとチェギョンちゃんって、どういう関係?」
 
 
「ど・・どういう…関係って?」
唐突な質問に焦るシン。
 
 
「ん… だって、いつだったか、あの子ともめてたんだろ?」
「シンがあっちの校舎に行くなんて珍しいし… しかも女の子の肩を掴むなんてさ。
 普通じゃないだろう?」
ファインダーから眼を逸らすことなく、ファインダー越しにシンを見るファン。
「シンは有名人なんだから、ちょっとしたことでもすぐ噂になるんだよ。」
 
 
あぁ…そういうことか・・
「別になんでもない。」
ファインダーの向こう側、少しばかりあがるファンの口元が気になる。
 
 
「なんでもないか…。」
 
 
「あぁ…なんでもない。」
 
 
「じゃあ、俺の気のせいかな…
 この前、練習室のヒョリンじゃなくて、渡り廊下の方を見てた気がしたんだけど…。」
 
 
「 !? 」
「気のせいだろう…。」
 
 
「でもヒョリンがシンに気づいて、軽く手をあげてたのに、気づかなかったよね?」
 
 
「渡り廊下の方が騒がしかったから―――。」
 
 
「ふ~ん…
 今までのシンなら、そんな方は絶対、見ようとしなかったけどね。」
 
 
そうだ…
騒がしい輩など見ることはなかった。
僕を見てはしゃぐ女の子2人の奥にたまたまキャンバスに向かう彼女が目に入ったから…
「たまたまだ…。」
そう言ってシンはまた雑誌に視線を落とす。
 
 
「たまたまね…  じゃあ、これ・・巻き戻してみる?」
 
 
「 !! 」 
ファインダーから視線を外し、ジッとこちらを見るファン。
あぁ… こいつはある意味ギョンよりもウザい。
シンは小さく息をつく。
「なにが言いたいんだ?」
 
 
「協力して欲しいんだ、シンに―――。」
 
 
 
 
 
 
 
『全く…ファンの奴・・』
「チッ・・」と小さくシンが舌を鳴らす。
 
「げっ・・ 俺、また間違ってる?」 恐る恐る視線をあげ、シンを見るギョン。
 
「いや…。」
 
「はぁ――、良かった。」
「でもさぁ・・またシンが勉強会に顔を出してくれるとはな♪」
 
 
「ファンがどうしてもって・・。」
ファンが協力して欲しい…そう言ってきたのは勉強会の事だった。
意外な頼みで少しばかり気が抜けた
1人で2人を見るよりは2人で1人ずつを見る方が効率的だと。
しかも最初はシンが請け負った事なんだから、協力してくれるよね?と―――
 
 
「俺が頼んでも、全然、取り合ってくれなかったのにな…。」
 
 
「ウザい・・ 口を動かす暇があるなら、手を動かせよ。」
どんな風に顔をあわせていいかわからなかった。
それにギョン… おまえに利用されてるかと思うと癪に障る。
僕の事が好きな彼女を・・
 
 
「はぁ―――、やっぱシンは厳しいよなぁ…。
 いいよなぁ… チェギョンはファンで・・」
ギョンは恨めしそうに、対角線上の出入り口付近の席に眼を向ける。
 
 
「おまえはファンよりも僕の方が良かったんじゃないのか?
 確か・・最初にそう言ってただろう――。」
不機嫌そうにシンの眉がピクリとあがる。
 
 
「そうだった・・っけ?」
 
「あぁ・・厳しい方がいいってな。」
 
諦め半分で問題集に再び視線を落とすギョン。
そんな時、ファンとチェギョンの楽しそうな声が聞こえてくる。
 
 
「うわっ、惜しいな、ここ…  でも他はあってるよ。」
「ほんとに!?」
「あぁ。 はい、じゃあ、御褒美にこれ。」
「きゃあ~♥ このチョコレート、すっごく美味しいんだよね。
 この前、雑誌に取り上げられてたけど・・。」
 
 
「シン… 俺も褒めてもらった方が伸びるタイプだと思うんだが――。」
捨てられた子犬の様な眼差しをシンに向けてみる。
だが―――
 
「褒める部分がない。」 
 
一蹴されるギョン
 
 
 
 
一体、僕は何をしているんだ。
 
僕の事が好きらしい・・そんな彼女の事が気にかかる。
いや、そんな事を知る前から、
疑われながらもいい訳すらしなかった彼女が気になってはいた。
そして、キッと強い眼差しを向けたかと思えば、グッと涙を堪えてみたり・・
 
気になってはいたものの、接点はなくて
校舎も違えば、出会うことは皆無に近い…
だから、偶然見かけては、眼で追っていた。
渡り廊下で課題をする姿とか…
自転車に乗って帰る姿とか・・
 
チョコレートひとつで、あんなにもはしゃいで…
そんなにも美味いのか?
 
僕は無防備にも彼女を見てしまう。
教室の端と端・・
ファンと彼女が僕に背中を向けているのをいい事に… 
 
 

my lovely cupid 10

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僕に背を向けて座る2人
そのせいで彼女の表情はあまりよくは見えない
今は困った風に眉尻を下げているのだろうか…
 
っていうか―――
なんであいつらは隣同士に座っているんだ?
僕らは向かい合わせなのに…
 
ファンって、女の子の話とかもあんまりしないけど
扱い方は慣れてるっていうか…
 
 
そもそも、なんで僕がギョンの担当なんだ?
 
 
 
僕の事が好きな彼女
彼女は僕の姿を見て、目をまん丸く見開いて固まった。
僕が此処にいるというのが予想外だったのだろう。
そんな彼女をファンはスッと連れ去ってしまった。
『チェギョンちゃんは俺が担当だからね…』 そう言って・・
 
彼女はペコリと僕に軽く頭を下げて、ファンのあとをついていく。
【えっ・・ それだけ…】
僕は何を期待していたんだろう
彼女に何か言って欲しかった?
顔はあわせ辛い・・ そう思っていたのに?
 
 
 
「よしっ、できたぞ! シン♪」
 
指示していた分までの問題をやりきり、期待の眼差しで僕を見るギョン。
『褒めて♥ 褒めてくれよ~♥』
尻尾を振り、御褒美を待つ犬のようだ―――
 
「じゃあ、次はここまで。」
シンは口数少なく問題集のページを捲り、指示を出す。
 
「げっ・・ ちょ…ちょっと多くないか?」
 
「基礎的な計算問題だ。今のおまえにはちょうどいい。」
いや…おまえにちょうどいいんじゃない
僕にとって都合がいいんだ。
おまえに邪魔されなくて――
 
彼女の事が気にかかる
自分でもよくわからない感情と苛立ち
これは、いったい何なのだろう・・
 
 
 
下校時間の10分前
ファンと彼女が席を立つ
どうやら、今日はおしまいらしい。
彼女はちらりと振り返る様にこちらを見たものの、
まだ勉強しているギョンを気遣ってか、声もかけることはない。
声を顰めるようにして
「ファン君、どうもありがとうね♪ バイバイ。」
ニコッと微笑み、小さく手を振ると、カバンを手にそっと教室を出ていく。
そして彼女を見送ったファンが荷物を纏めて、こっちにやってくる。
「ギョン、頑張ってるな~。」
 
「えっ、ファン、もう終わったのかよ。早くないか?」
時計をチラリと見やるギョン。
 
「そうか?
 でも今日、予定してた所までは終わったし…。」
 
 
 
 
僕は彼女と話す事もないまま、ただぼんやりと彼女を眺める
こんな毎日がテストまで数日続いた。
これがファンの策略だとは気づかないままに―――
 
 
 
 
 
 
テストを終え、結果が出た。
ギョンの結果は63点… 辛うじて目標の60点をクリア―していた。
 
 
「おい、見ろよ! 63点! 63点だぞぉ―――!」
答案用紙をひけらかし、大喜びのギョン。
 
「おまえ、たかが63点だろう・・ そんなに喜んで・・バカ丸出しじゃねぇか。」
呆れたように呟くイン。
 
「そんなこと言って、インなんか62点じゃないか!」
ギョンがインの答案用紙を覗き込んで言う。
 
「うるせぇ、黙れ、馬鹿ギョン!」
 
 
そんな2人の小競り合いを見ながら、ファンはシンに話しかける。
「シンのおかげだね~。
 これでアイツは告白できる。」
 
 
「あぁ… そうだな。」
そうだった…ギョンは彼女に告白する為に頑張ってたんだっけ・・
すっかり忘れてた。
苦笑いを浮かべたシン。
 
 
「シン、マジでありがとうな♪ ファンも♪」
ギョンがインを振り払い、シン達の元にかけてくる。
 
「よかったな、ギョン♪」 ファンも嬉しそうにギョンの胸に拳をあてる。
 
「おぉっ、今ならなんでもやれそうな気がする♪」
「まぁ、ダメ元だけどさ… でも俺、今回は簡単には諦めないから。」
ギョンもファンに応えるようにファンの胸に拳をあて、ニッと微笑んだ。
「取りあえず、チェギョンの奴にも報告しとかなくっちゃな♪」
そう言うと、ギョンはポケットから携帯を取り出し、嬉しそうに廊下へと消えていく。
 
 
「さっそく告白か・・」 ポツリ、シンが呟くように言う。
 
「あぁ、そうかもね…
 なんせギョンの白鳥はチェギョンちゃんの親友だからな。」
ギョンの背中を追いかけるように見つめながらファンが呟く。
 
「 !! 」
ギョンの好きな子は――― 
 
「なに、拍子抜けした様な顔してるの?」
チラリとファンはシンの方を見る。
「今、ちょっと、ホッとしただろう。」
 
 
「はっ、何が――。」
 
 
「気になるんだよね?
 シンはチェギョンちゃんのこと。」
 
「別に…。」
 
 
小声で2人、そんな事を言いあっていると、
さっきまでと様子が違うギョンが教室に戻ってきた。
シンとファンは顔を見合わせる。
「まさか… もう、振られてきたとか・・?」
 
「おい、ギョン・・ どうかしたのか?」
そのまま2人の前を通り過ぎていきそうなギョンに、ファンは腕を掴み、声をかける。
 
「ファ・・ ファンっ!」 ファンを見るなり抱きつくギョン。
 
「おいっ、なんだよ急に・・ 苦しいだろう!」
 
「やっちまった…。」
 
「はぁっ、何をやっちまったんだよ?
 おまえがハメを外すなんてことはいつものことだろう。」
迷惑そうにファンは力をこめて、ギョンの身体を引き離す様に胸を押す。
 
引き離されたギョンは両手で頭を抱えてその場に座り込んだ。
「俺、自分のことで浮かれててさ…
 チェギョンも良かったねって、喜んでくれてたから・・。」
 
 
「だから―― それがどうしたんだ。
 いつものおまえじゃないか・・。」
 
 
「アイツ・・ とれてなかったんだ。」
 
「えっ…。」
「もしかして、赤点なのか?
 ウソだろう? あれだけ勉強してたのに?」
勉強会でのチェギョンは完璧ではないが
基本的な問題は解けていて、赤点などとりそうにはなかった。
 
 
「赤点な訳ないだろう!」
 
「じゃあ・・」 何がとれてなかったんだ?
 
 
「チェギョンも俺と同じ目標を持ってたんだよ。」
 
「同じ目標って…まさか・・。」
ファンは慌てて、ギョンをその場から連れ去るべく手を引いた。
「ギョンっ、落ちつけ! ちょっとこっちに来い。」
ファンはチェギョンの好きな人がシンであることは知らなかった。
ただシンにチェギョンが好きな人がいることを聞かれては…
そう思い、ギョンをシンのいる場所から遠ざけたのだった。
 
 
 
人気のない階段の踊り場で2人は話をする。
 
「もしかして、チェギョンちゃんって好きな奴がいるのか?」
 
「あぁ… いるよ。」
 
「マジかよ…」 今度はファンが頭を抱えてしゃがみ込む。
 
「まさか、ファン、おまえ・・・」 目を見開き、絶句するギョン。
 
「はぁっ、いやっ、それは違うから―――。」 ファンは慌てて否定する。
 
「でも、ファン…」
よく考えれば勉強会も協力してくれてたし・・
チェギョンは俺たちの周りにいないタイプで、ファンが興味を持っても不思議じゃない。
 
じぃっと疑いの眼で見るギョンに観念したようにファンが口を開く。
「僕じゃない――
 シンがチェギョンちゃんに、気があるんじゃないかと思ってさ。」
 
 
「へ・・
 シン?  シン―――――――っ!」
 
「バカっ! 声がでかいんだよ!」
 
 
「な… なんでシンが・・。」
 
「シン本人は否定している。
 だけど・・俺は間違いはないと思う。」
 
「なんだよそれ・・ あてにならないじゃん…。」
「だけど、それが本当なら、
 チェギョンが告白出来てたら、うまくいったかもしれないってことだよな?」
 
 
「もしかして、チェギョンちゃんが好きなのって・・ シンなのか?」
 
 
「・・・・・・。」
あぁ、俺ってなんて口が軽いんだろう・・
そう思いつつもギョンはコクリと頷いた。
 
 
「じゃあ、俺にいい考えがあるから―――。」
ファンはギョンに計画を話しだす。
 
「でも…それって・・。」
 
「大丈夫さ・・きっとね。
 
不安げなギョンとは対照的に、ファンは自信ありげに微笑んだ。
 
 
 
 

お知らせ☆求む! チャレンジャー (^^ゞ

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  秋・・
    せつなな予感・・・
 
   
 
     
   って・・マジッすか?
   私的には初夏の桃祭りの方がしたかったんですけど…
   
    季節は既に秋
   多数決にて完敗です
  
 
   hyの苦手分野やのに
   「イヤや~~~、イヤイヤ!」
   って、ダダこねてたら、
    
    「んじゃ、コラボるべ」
 
    「はぁっ!? はぁ――――――っ!」 (撃沈)
 
 
  
   そんなこんなで
 
      第一話、本日9/24☆先行UP
 
 
 
   せつなですから・・
   冒頭話は私じゃありません
   そそ・・もちろんあの方です
   (こんな無茶言うの・・ふらちゃんしかいないでしょ)
   
 
 
   ちなみに大筋なイメージ画がこちら
       ↓↓↓
 
 
 
イメージ 1
 
 
  「うぎゃっ!」って絶句したのは私だけじゃないはず…
  
 
 
  そして何故、第1話を先行UPするのか・・・
  「それはタイトルが決まらないから――――!」
 
 
   って事で、募集いたします!
   第1話を読んで、タイトルを考えてください(爆)
   思いついたタイトルはこちらのコメ欄
   もしくはふらちゃんがUPする第1話のコメ欄にお願いします♥
    
 
     私達、タイトル考えだすと手が止まるんですよ (T_T)
      完全フリーズ状態・・
      タイトル決まんなきゃ、次、進めんのです…
      なので協力していただけるとありがたいです♥
      軽~い気持ちで・・ 思いつきで、どうぞ 
     
 
      『 求む! チャレンジャー! 』  
 
 
 
  はぁ…
   去年は確か『せつなweek』が『せつなseason』になった方がいた様な・・
  
 
   もちろん、今回も参加していただきますよん♪
  ひろろんさ~~ん、ノモスさ~~~ん、よろしくでございます 
 
 
 
♢♦♢♦♢♦♢♦♢
 
  
   チャキチャキの部屋  ひろろん
 
   ノモスの茶の間  ノモス
 
   風船みたいに  fluff (←本日1話目スタート!)
 
    
  以上の3名と、此処の管理人☆hyを加えた4名でお送りいたします
 
 

my lovely cupid 11

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澄み切った蒼い空
心地よい風
 
今日は告白日和♪  
チャン・ギョン・・ 男になりますっ!
 
って―――
軽く握りしめた手、小さくガッツポーズを決めてみる
だけど… その手には汗がじわりと滲んでいた…
 
約束した時間より早くに待ち合わせ場所に来たギョンは大きく深呼吸をした。
 
 
 
 
はぁ…
今日の俺・・責任重大だよな・・
まったく、ファンの奴
 
シンとチェギョンをくっつけるのにてっとり早い方法が、
俺がガンヒョンさんと付き合うことだなんて…
確かに俺とガンヒョンさんが付き合う様になれば
必然的に双方の友達である2人が顔を合わせる機会も増えるだろうけど―――
 
『ギョン、頑張れよ…
 おまえが上手くいかないと、たぶん、
 もう、シンとチェギョンちゃんの接点は無くなっちゃうからさ♪』
 
ファンの奴・・ 
にこやかに、最後にすんげぇプレッシャーなひと言を投げかけやがって
何がいい考えがあるだ…
 
でも、なんであんなに自信ありげだったんだろう?
もしかして、俺がうまくいくって信じてくれてるとか?
やっぱ、俺って結構イケてるのか―――
 
少しばかり顔がにやけてくる
 
 
 
「おい・・いつもながら、随分としまりのない顔だな…。」
 
「 !! 」 振り返り、声の主を見て驚き固まるギョン・・
「えぇっ… なんでシンが此処に・・。」
 
「ファンに―― 呼び出されたんだ・・。」
 
「ファンに?」
な・・なんで… ファンの奴?
今日はテストも終わったことだし、
パァーっと遊びに行こうってファンの奴が提案して…
男2対女1ってのも――って話になって、
チェギョンの奴が気を利かせてガンヒョンさんをよんでくれて・・
頭の中を整理しながら思い出すギョン。
やっぱり、シンの事なんて…ひと言も言ってなかったよな。
 
 
「…ったく・・ なんでこんな人の多い駅前なんかで待ち合わせなんだ?」
帽子を眼深に被り直しながら、不機嫌そうにシンが呟く。
 
「それはだな、今日はチェギョンとガンヒョンさんと約束してるからだ。」
 
「なに・・・?」 ピクリとシンの眉があがる。
 
「・・・・もしかして… ファンの奴、シンに何も?」
 
「・・・・・・。」
 
あぁ…無言であることがすべてを顕しているな…
ギョンの額にいやな汗が滲む
そんなギョンのポケットの中の携帯が着信を知らせる。
ディスプレイにはファンの名前
ギョンは、すぐさま通話ボタンを押すと縋る様に声を発した。
「おい、ファンっ! おまえ、今、何処だよ!」
 
「あぁ… 悪い・・急用ができちゃってさ、行けなくなっちゃった。」
 
だが、ギョンの携帯は既にシンに奪い取られ・・
「行けなくなった?」
 
「あっ、シン♪ ちゃんと来てくれたんだね。」
悪びれた風でもなく、サラリというファン。
 
「どういうことだ、ファン?」
 
「だから急用ができてさ…。」
 
「そんなことはどうでもいい! どうして、シン・チェギョンも―――。」
 
「あれ… 言ってなかったけ?」とぼけるファン。
「取りあえず、今日はギョンの為にセッティングしたんだからさ…
 シンは邪魔だけはしないように頼むね。」
 
「じゃあ、邪魔にならない様に僕は帰るとしよう…。」
 
「それ、邪魔以前の問題…。」
 
「なに?」
 
「だってさ、女の子2人にギョンだと、どう考えたってギョンが邪魔だろ…
 女の子達はギョンを放置で2人で盛り上がる。
 そうなったら、この計画はパァーだ。
 頑張って60点以上をとったギョンが可哀想だと思わないか?」
 
「・・・・・・。」
別にギョンことはどうでもいいが…
 
「いや… ギョンの気持ちを知ってるチェギョンちゃんなら気を使うから、
 チェギョンちゃんがあふれて寂しい想いをするのかもなぁ…。」
 
「・・・・・・。」
寂しい・・想いか…
涙をグッと我慢していた時のチェギョンの表情を思い出すシン。
 
 
くくく… この沈黙、考えてるよな、シンの奴。
携帯の向こう側・・シンの様子を想像するファンの口元が微かにあがる。
「あぁっ、ヤバイ…  充電が切れる―――」 慌てたファンの声
そして・・
『プゥ――― プ―――』 無情な機械音
 
 
シンは携帯をゆっくりと耳から離した。
 
 
 
 
♦♢♦♢♦
 
充電など切れてはいない
ファンは自身の指で通話をきった。
 
これでたぶん大丈夫だろう。
この計画を思いついた時から、ファンは自分ではなくシンを行かせようと考えていた。
 
ギョンにはおまえの告白にかかってる―― みたいに言ったけど…
ギョンが恋した相手、イ・ガンヒョン
リサーチしたところ、冷静で頭が切れるタイプ。
ギョンが告白したとして、すんなりと受け入れるとは思わない
 
これは2つのカップルをうまく行かせるための最善の方法
たぶん、シン自身は動かない。
そしてチェギョンちゃんも―――。
だけどチェギョンちゃんの気持ちを知ってるガンヒョンさんなら…
シンとチェギョンちゃんを2人にしてやろう・・なんて気を利かせる筈だ。
そうなればギョンにだって2人きりになれるチャンスが生まれる
一石二鳥ってわけだ。
 
「さてと…。」 ファンは車のエンジンキーを差し込んだ。
 
 
 
♢♦♢♦♢
 
無言のまま、シンは押し付ける様にギョンに携帯を返す。
 
「で・・ファンは、なんだって?」
携帯を受け取りながら、恐る恐るシンに尋ねるギョン。
 
「急用ができたから来れないそうだ…。」
 
「えぇ――――っ、 マジかよ…。」
俺っちのデートのはずが…シンの子守りに変更かよっ!
それに今日の告白・・俺はファンのアドバイスを結構、期待してたんだぞっ!
シンじゃ、何の役にも立たないじゃないか―――
ショックに打ちひしがれるギョン。
そこに・・
「おーい、ギョン君♪」 
手を振りながらこちらへ向かってくる2人の姿が目に飛び込んできた。
『白鳥♥』
先程までの落ち込みは何処へやら・・ 
制服姿も素敵ですが私服姿もかなりいいです!
ギョンのテンションは一気にあがる。
 
 
「ごめんね、待った?  …って・・ あれっ、ファン君は?」
キョロキョロと辺りを見回すチェギョン
 
「えっと… ファンは今日は急用ができたらしくて…
申し訳なさそうにそう告げた後、ギョンは自身の背中側にいるシンの方へ視線を向ける。
その視線を追う様にガンヒョンとチェギョンはギョンの背後を見る。
帽子を眼深に被り、口元は手で覆った男が一人。
 
「あっ…」 チェギョンは気がつき、小さな声を漏らす。
「まさか・・皇太子・・殿下?」 ガンヒョンは眼鏡を整えるようにしてシンをジッと見た。
 
「あはははは… 正解。」
そう言うとギョンは振り返り、むんずとシンの腕を掴んで、自分の横に引っ張り出した。
 
「な・・なんで皇太子殿下が?」 チェギョンの代わりにガンヒョンが驚きの声をあげる。
 
「ファンがかわりにって…」
 
「そう・・なんだ。」
代わりに…って言ったってねぇ・・
ガンヒョンは隣にいるチェギョンの様子を確認する。
 シンとチェギョンは俯きがちで、2人とも視線をあわせない。
そんな2人を気遣う様にガンヒョンが積極的に口を開く。
「だけど、大丈夫なの? こんなに普通に、殿下が此処に居ても?」
 
「まぁ、大丈夫なんじゃないか?
 まさかシンがこんな風に女の子連れで遊んでるとはだれも思わないだろうし…。」
シンのせいで、ガンヒョンと過ごせるチャンスを無駄にはしたくないとばかりに
頑張るギョン。
「それに、シンの奴、今どきなデートをしてみたいって言ってたし…。」
 
「・・・・・・。」 俯きがちだった視線をギョンに向けたシン。
そんなことは言ってはいない
それはかつて・・おまえが勝手に言ってたことで…
 
「そうなんだ… じゃあ、問題はなさそうね。」
「まぁデートではないけど、やっと勉強からも解放されたんだもの
 それに、もらったチケットを無駄にしても勿体ないし…
 今日一日、楽しみましょうか。」
微妙な空気を汲み取りながらも前向きに進めるガンヒョン。
 
「だよな♪」
 
「ほら、チェギョンもっ♪」 クイッとガンヒョンはチェギョンの手を引っ張った。
 
「そう・・だよね。」
チラリとシンの方を少しだけ見遣る。
勉強会、後半の数日、殿下とは一緒だったけど、特に何か言われる事もなかったし…
「よぉ~し、今日はいーっぱい遊んじゃうぞぉ~♪」
 
ガンヒョンはクスリと笑う。
「そうよ、チェギョン。 せっかく開園前に間にあう様に来たんだもの。
 全部乗り倒さなきゃね♪」
 
そう言うとチェギョンとガンヒョンはワイワイと言いながら
目的地に向かって歩き始める。
少し離れたその後ろをニマニマと歩き始めたギョンの腕を、シンはグッと掴む。
「おい・・何処へ行くんだ?」
 
「へ? 何処って… 遊園地。」
 
「はぁっ!」
 
「ファンの奴がね、貰ったんだってさ…。」
ギョンがファンから預かっていた4枚のチケットをシンに見せる。
 
「・・ったく…。」
初めからファンは来る気がなかったってことか…
そうでなければギョンにチケットをことづけることはしないだろう。
しかもそのチケットは4枚だけ。
シンはファンに嵌められた事に気づいた。
「チッ・・」 小さく舌を鳴らす。
 
「もしかしてさ… シンって遊園地、初めてだったりする?」
 
「・・・・・。」
確かに…初めてだ。
別に行きたいとも思わなかったしな。
 
「まさか高所恐怖症だったりとかはしないよな?
 ジェットコースターが怖いとかさ…。」
 
「大丈夫だ――。」
 
「なら・・ 楽しもうぜ、シン♪」
 
 
ファンに嵌められたことは癪に障るが・・
これも悪くないかも
そう思ってしまう。
数メートル先で友人と楽しそうに話す彼女を見ていると――
「・・・ わかった・・。」
言葉少なく、シンは応えた。
 
 

更新案内と御礼

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おはようございます (^o^)丿
 
my  lovely  cupid  11
 
更新いたしました♪
 
皆さん・・ギョン君には期待していない模様・・
でもっ
うちのギョン君はできる子なんです!
そう… たぶん・・ きっと…
 
 
 
そして
タイトル募集にチャレンジくださった方々
ありがとうございました♥
 
もう・・ふらちゃんちのコメ欄、大変なことになっちゃったようで…
だけど
 
無事に決まりました♪
『FOOL×FOOL
 
バカ2乗?
それって私の事かいっ!って思いながらも
可愛らしいし、いいかなって…
 
 
ヒョリンがで―んって出張ってきそうで、
皆さんの拒否反応がビシバシと伝わってきておりますが
昨日、第2話がひろろんさん宅で公開されました♪
 
 
取りあえずタイトルに反して、
私はお馬鹿封印で頑張りたいと思います
 
ではでは <(_ _)>
 
 

Fool×Fool 3

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シンの指先が会話を閉じた。
 
みんなでか…
そこにはヒョリンも含まれる――  そういうことか
シンは小さく息を吐き出しながら、天を見上げると軽く目を閉じた
 
 
『私を待たなかったこと… 後悔するわよ』
そういって自分の夢を叶えるべく旅立ったヒョリン
 
 
「後悔か…」
シンはポツリと呟いた。
 
 
 
 
♢♦♢♦♢
 
『好きにすればいい。』
相変わらずの冷たいシンのひと言。
「みんなで行くよ。
 今年もチェジュ島なんだろ?それでさ――」
ふと見上げたインの視線の先に一人の女性の姿が映る。
 
ヒョリン・・
 
その姿を捉え、インは一瞬息をのんだ。
 
 
 
「イン・・」
インの姿を捉え、にこやかに手を振り、ヒョリンはインの元へと歩き出す。
 
 
 
 
帰国してきたヒョリンから買い物に付き合って欲しい
そう言われて、このカフェで待ち合わせをしていたイン。
デートでもないのに、落ちつかなくて
待ち合わせよりも早くにこのカフェに来ていたインは
コーヒーを頼み、もて余す時間を潰そうと携帯を手にとると
ふと思い出す様にシンに電話したのだった。
久々に会うヒョリンは留学する前よりも、髪は伸び、
メイクも施しているからか、随分と大人びて見え、インは言葉を失った。
 
 
「久しぶりね、イン。」
 
「あぁ…久しぶりだな・・ ヒョリン。」
挨拶を交わしてから、インは手にしていた携帯の存在を思い出し、
慌てて耳元へとあてがった。
だが聞こえてきたのは沈黙でも何でもなく、
通話が切られたあとの機械音のみだった。
ホッと胸を撫で下ろすイン。
 
 
「誰かと電話中だったの?」
 
「あぁ、ギョンとな…」 
咄嗟にウソをついた
別にウソなんてつかなくても良かっただろうに
 
 
「そう…
 ねぇ・・みんな、元気にしてる?」
電話の相手のことなど気にならないとばかりにヒョリンが近況を尋ねてきた。
 
 
『みんな』
ヒョリンはひとまとめにしたが聞きたいのはシンの事なのだろう
そんなことはわかっている。
だがインは当たり障りのない言葉をヒョリンに返す
「あぁ… みんな元気にしてるよ。
 大学が別になってあまり会うことはないけど、
 連絡は取り合ってるし、都合がつけば飲みにもいくしな…。」
ただし、それはギョンとファンだけのこと
近頃のシンは乗馬クラブにさえも顔を出さなくなっていた。
「ヒョリンは留学先ではどんな生活を送ってたんだ?」
今のヒョリンとシンの話はしたくはない…
そう思ったインは話題をヒョリンに向けた。
 
 
「今までと変わらないわ。毎日がバレエ漬けよ。」
ヒョリンはフッと息を吐くと小さく眼を瞑った。
 
いや、今まで以上に厳しい世界だった。
レベルの高い練習にライバルがひしめき…
練習を終え、帰る場所は寄宿舎での共同生活
身体も心もゆっくりと休める場所なんてなかった。
 
別に話すような事はないと言わんばかりのヒョリンの態度に
インは他の話題を探し始める。
だがヒョリンは
 
「シンは―― どうしてるの?」
 
 
今度は単刀直入に尋ねてきた。
「シンは… 公務が忙しいのかほとんど会うことはない。
 まぁ、たまにTVに映る姿をみれば元気なんじゃないのか。」
実際、あまり接してもいない。
どうでもいいような、誰でも知っているような事をヒョリンに告げる。
もうシンの話題に触れなくてもいい様に・・
 
 
「そう…。」
ヒョリンの口元がホッとした様に少し緩んだ。
 
 
そんなヒョリンを見て、ずっと喉の奥にしまいこんできた言葉をインは口にした。
「いい加減に諦めたらどうだ――。」
 
 
「何を諦めろっていうの?」
少し緩んだと思われた口元がきつく締められる。
 
 
今日、ヒョリンに出会う前までは、
以前の様に、自分の気持ちはさておき
ヒョリンの望むようにしてやろう・・そう思っていたのに…
インはテーブルの下、自身の手を硬く握りしめた。
「シンは結婚したんだ―――。」
 
 
「わかってるわ、そんなことぐらい…。」
 
「じゃあっ!」
 
身を乗り出したインを置いて、ヒョリンが席を立つ。
「今日は買い物にいく気分じゃなくなったわ。」
 
「ヒョリン・・」
 
 
「インは・・私の一番の理解者だと思っていたのに…。」
ポツリとそう言い残し、ヒョリンは店を後にした。
 
 
 
 
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既に1話目はふらちゃんが・・
2話目がひろろんさんが
   UPしてくれております
 
私で3話目・・・
 
となると、
次はノモスさんですかね(笑)

Fool×Fool 7

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せっかくでてきたんだもの…
ヒョリンの脚はまた人の多く行きかう場所へと向かう。
 
 
シンの誕生日
何をあげれば喜ぶかしら
 
 
遠い異国の地ではシンの情報なんて探さなければ眼にすることもなかった。
それは私達の今の距離を顕しているようで
 
大学には結構ラフな服装でいってるのね
偶然立ち寄った書店におかれたゴシップ紙にその姿を見つけた。
帰って来たんだわ・・この国へ
シンのいる国に
 
探さなくても目にすることができるなんて
昔のようにシンとの距離が縮まった・・そんな気がした
 
でも・・シンの横にいるのは―――
 
「似合わないわね…」 
手にとるのをやめ、ポツリとヒョリンは呟いた。
 
 
 
 
取りあえず、今日はウインドーショッピングだけでもいい
今の流行りも知りたいし…
ふらりと立ち寄ったデパート
これと言って眼につくものはない。
 
「あら・・」 ヒョリンの脚が止まる。
 
 
 
ネクタイ売り場
キャッチコピーに目が奪われる。
 
  『貴女が願うのは・・ 成功?
     それとも・・・  彼自身?』
 
キャッチコピー横に書かれた小さな注意書き
『友人には成功を… 恋人には貴方が欲しい
 そんなメッセージがネクタイにはこめられています』
 
「へぇ… 友人に贈るのと、恋人に贈るのとでは意味が違うのね・・。」
ネクタイにそんな意味があるなんて知らなかった。
 
 
 
「お客様、どなたかへのプレゼントをお探しですか?」
脚を止めたヒョリンに、店員が声をかけてきた。
 
 
「えぇ… 彼に・・」 ヒョリンはにっこりと微笑んだ。
 
 
 
 
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足早にパビリオンから姿を消したシン。
そこに取り残された従者が一人、心配そうに深いため息をつく
 
 
「コンおじさん… どうかしたの?」
向かい側の部屋のドアからひょっこり顔をのぞかせたチェギョン。
 
 
「妃宮様…。」 コン内官は慌てて頭を垂れる。
 
 
「なんだかシン君…難しそうな顔してたけど・・。」
 
 
「はぁ…。」
その一因にチェギョンのドレスが絡んでいるとは口に出せず
ますます困惑の色を深めるコン。
だがチェギョンの視線が自分ではなく、
シンの出ていった方向を追っている事に気づくと、言葉を続ける。
「殿下は皇后陛下の元へ行かれました。」
 
 
「皇后さまの元へ?」 
キョトンと不思議そうに小首を傾げるチェギョン。
そして、何かを思いついたようにハッとした表情を浮かべる。
「もしかして、シン君・・また何か?」
 
 
「は・・?」
また何か・・とは…
チェギョンの表情から察しがついたコン内官
「いえいえ… 殿下の方が陛下にお話があると・・。」
 
 
「そ・・そうなの?」
意外とばかりにチェギョンは目をパチクリと瞬かせる。
じゃあ、なんでシン君もコンおじさんも難しい顔をしてるんだろう?
もしかして…
チェギョンはシンの部屋の前で立ち聞きした事を思い出す。
「もしかして… 私がシン君の誕生日に――」 
 
 
「妃宮様は今年はどのようなプレゼントを―――。」
チェギョンの言葉と重なる様にコンは口を開く
 
 
「へ・・?」
 
「申し訳ありません… 妃宮様。」 慌ててコンは口を閉じ、頭を垂れた。
 
 
「あっ・・・」
「えっと… 今年はネクタイにでもしようかなって。」
 
 
「ネクタイでございますか…。」
意外と言いたげなコンの表情
 
 
「ダメかな?」
 
 
「いえっ、殿下は公務などでスーツをよく召されますから、
 よろしいのではないでしょうか。」
 
 
「そう? そう思う?」
コクリと頷くコン内官を見て、ほっと安堵の色を見せたチェギョン。
「ほら、去年は失敗しちゃったじゃない…プレゼント。」
 
 
「失敗でございますか…。」
 
 
「あぁ、おじさんは知らないんだっけ?」
「私、シン君に恥をかかせちゃったの… 
 学校の上靴にね、絵をかいてプレゼントして。」
それは私にとっても苦い思い出。
「だから今年こそは、喜んでは貰えなくっても、
 シン君が恥ずかしい想いをしなくていいものを贈りたいと思って…。」
 
 
「左様でございますか・・。」
コンは幾度かシンが大事そうに箱を持っている姿を幾度となく見たことがある。
声をかけるとサッと隠す様に箱を閉じる為、
何が入っているのかきちんと見たことはないけれど…
一度だけ見たことがある
青龍の描かれた上靴を――
 
目の前にいるこの方にお伝えして差し上げたい・・
そうすればお二人は…
 
そうは思うものの、やはりそれは自分の役目ではない
それを伝えるのは殿下でなければ―――
出かかった言葉をコンはグッと飲み込んだ。
 
 
話を終え、その場を立ち去ろうとするコンに
チェギョンが思い出したように声をかけた。
「あっ、そうだ! ねぇ、コンおじさん。
 シン君の誕生日会の招待客のリストってもう出来上がってるわよね?」
 
 
「はぁ・・。」
 
「見せてもらってもいいかしら?」
 
 
コンは一瞬、躊躇した。
だが断る理由もない。
「例年通りで、大変わりはしないかと…。」
先程、シンに見せた招待客のリストをファイルから取り出した。
 
 
「ほら、ヒスン達・・今年は招待してもらえるのかなぁって思って…。」
去年、ヒスン達がいなかったら――
私には居場所すらなかった。
シン君の誕生日とはいえ、
今年は私の友人達も少しは招待してくれてるよね。
チェギョンはリストに目を通す。
王族たちの名が連なり、最後の方にシン君の友人達の名が連なる
 
「あっ――」
小さく声を漏らし、チェギョンは口元を手で覆った。
 
 
 
 
 
ひとつ前のお話
『Fool×Fool6』はひろろんさん宅です
 
『うわぁ―――! イケズ!』
そんな声が聞こえてくるような…
私の場合、セツナと意地悪は背中合わせです(激爆)
もうほんと、大丈夫なのか、私 
 
 
 

Fool×Fool 11

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Fool×Fool 10話はこちら
 
では 11話へ 
 
 
 
 
 
チェ尚宮が退出した後、
皇后であるミンは自分付きの尚宮に声をかけた。
 
「すまぬが、妃宮が今年のシンの誕生日にと希望したドレスのデッサンと
 昨年のシンの誕生日会の資料を此処へ持って来てはくれぬか――。」
 
単純に妃宮が着てみたい・・
そう申したドレスがどんなものなのか見て観たかった。
そして去年の様子から
パーティーがどんな感じのものなのか確認しておきたかった。
 
仕立ててやろう――
そう申し出た以上、その場の雰囲気にも妃宮にも似合うものを
持たせてやりたいとミンは思ったのだ。
 
 
ミンはさっそく手渡された資料に目を通す。
『これが妃宮が着たいと申し出たドレスか…』
普段の妃宮からは想像もできぬが――
これが今の流行りと言うことなのだろうか。
やはり自身の若い頃のドレスではなく、新しく仕立ててやるのが良いだろう
ミンは、ふぅっと小さく息をつく。
だが、次に手にしたパーティーの資料を捲るミンの手が急に止まった。
『これは…』
一枚の写真を食い入る様に見つめる
妃宮が着たいと申したドレスと同じデザイン・・
しかも同じ色…
写真の中、グラスを手にするシンの周りを囲んでいるのは
クラスメイトであるチャン・ギョン、リュ・ファン、カン・イン
そして、そこに親しげに混じる一人の女子… 
一体・・
 
『もしや・・』
ハッとしてミンは口元に手を当てた。
 
自身の推測はたぶん間違ってはいないだろう
いくら私の申し出とは言え、今や妃宮に仕えるチェ尚宮。
妃宮が選んだドレスなら、
無理を承知で、その希望をくみ入れて欲しいと願い出ただろう。
だが全く、そのようなことは口にも出さなかった。
私が先に妃宮の希望も聞きたい…そう申したにしろ・・
 
きっとチェ尚宮もこのドレスには反対したのだろう
だが妃宮が譲らなかった
 
 
もう1年も経つというのに・・
それほどまでに妃宮は―――
 
 
 
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尚宮とはいえ、宮中を走ることは許されない。
殿下が陛下に願い出た真意はわからぬが
陛下のお気持ちを早く妃宮様にお伝えしたい。
 
妃宮様は自らドレスの変更を申しだされた。
ご自身の間違いに気付かれたのかと思われたが…
 
『私はいらないね…』
 
ポツリと呟いたチェギョンの言葉がチェ尚宮の心を絞めつける
そんなことはないはずだと ――
 
 
 
漸く東宮殿に辿り着き、ドアをノックする。
「妃宮様、失礼致します。」
だが、返事はない
不安になったチェ尚宮は足早に部屋の奥へと進む
 
「妃宮様、妃宮媽媽!」
 
ベッドの上に座り込むチェギョンを見て、ホッと胸を撫で下ろす。
チェギョンはこちらには背を向けているものの、
そのお尻の下からは豆腐人形の脚が苦しげにのぞいていたからだ。
豆腐人形にやつあたりができるのなら問題はないだろう
少し前に泣いていた妃宮様とは違う。
 
 
「どうかしたの、オンニ?」
 
「妃宮様、陛下がお呼びです。」
息を整えながら、小さく頭を下げる。
 
 
「陛下が?」 とたんに両頬に手を当て、困った風に眉尻を下げる。
「オンニィ・・ 私、何かしたかしら?」
心当たりがない訳じゃない
いや、心当たりがありすぎてわからないといった方が正確か…
 
 
「陛下が殿下の誕生パーティーの席でのドレスを
 妃宮様に贈りたいと仰せられて…。」
 
 
「へ・・・」 
予想外の返答に、目をまん丸くして固まるチェギョン。
頭の中で、チェ尚宮の言葉を繰り返す。
「でも、どうして?」
あまりのタイミングの良さに疑問が口をつく。
 
 
「きっと衣装部担当の者の小言でも耳に入ったのではないでしょうか…。
 陛下は此処に務めるすべての尚宮・女官たちを統率されるお立場ですので。」
 
 
「そっか…、わかったわ。」
確かにあの衣装担当のオンニは凄く反対してたもんね。
チェギョンはベッドから降りると、上殿へ伺うべく服装の乱れを整えた。
そしてパビリオンに出たところで
部屋へと戻ってきたシンと眼があった。
 
「あっ・・・」
何も話さないのも変だ… そう思い、チェギョンはシンに話しかける。
「えっと・・ もうすぐ誕生日よね? どう・・ドキドキする?」
はぁ――、何、訳のわかんないことを聞いてるんだろう私。
あっ…でも、このチャンスにシン君の欲しいもの、聞き出せるかも・・
甘い期待がチェギョンの胸をくすぐる。
 
 
「・・・別に…。ひとつ歳をとるだけだ。 なんら変わりない。」
 
 
「えっ、でも、パーティーでどんな料理が出るのかとか、
 どんなプレゼントがもらえるのかって考えてたらワクワクするでしょ?」
少なくとも私は此処に来るまでは、毎年、誕生日はワクワクしてた。
 
 
「興味がない。」
 
 
「興味がないって――。」
「でも、シン君だって、プレゼントにはこんなものが欲しいとかって
 思ったりするでしょ?」
 
 
「欲しければ自分で買えばいい。」
 
 
「・・・・・・。」
そうよね… シン君ならなんでも自分で買えるよね。
凄く高級で華美なものでない限り、身につけるのも制限はされないだろう
呆気ないほどにシンの欲しいものを聞き出す事に失敗するチェギョン。
 
 
「そう言えば、おまえは今年はどんなプレゼントを僕にくれるんだ?」
 
 
あぁ… 今年は恥をかかせるなって… そう言いたいのね。
「へ・・
 え―――っと・・ まだ決めてない。」
本当はネクタイに決めたけど…
それはまだ内緒
 
 
「そうか…。」 シンの口元がにわかに緩む。
 
 
「あっ・・だけど、安心して。
 今年は去年みたいに失敗しないから!」
 
 
「・・・。」 失敗?
 
 
「去年はほら… シン君の誕生日も知らなかったし、お金もなかったけど・・
 今年は大丈夫だから」
俯きがちに言葉を紡ぐチェギョン。
 
 
「そうか… まぁ、別に期待などしてはいないが…。」
 
 
「・・・・・・。」
期待などしていないか――
そうよね、私のプレゼントなんて、
シン君にとってはあってもなくても一緒って事よね
そう・・それは私の存在と同じ
 
 
「話はそれだけか?」 チラリと後方で控えるチェ尚宮にシンは視線を向ける
 
 
「あっ… うん。」
くだらない… そう言いたいのだろうか
 
 
重い空気から逃れるべく、チェ尚宮が声をかける。
「妃宮様・・ 陛下がお待ちですので…。」
 
 
無言のまま擦れ違う2人
 
 
後方に控えながらもチェ尚宮はシンの表情を垣間見る
だがやはり、その心のうちは見えない。
『妃宮媽媽…』
歩を進めはじめたチェギョンは俯きがちで
チェ尚宮は心配そうにその背を見つめながら、後に続いた。
 
 
 

Fool×Fool 15

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聞きたくない…
 
 
2~3年したら
僕達が大人になったら―――
そう言ったじゃない
 
まだ1年しか経ってないのに
 
シン君はずるいよ
こんなにも好きになるはずじゃなかったのに
 
 
頑なに目をギュっと閉じ、チェギョンは更に強く両手で耳をふさぐ
 
 
 
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「チェ・・ギョン・・・?」
 
シンは手にした箱を、再びサイドテーブルにおくと
ソファーで身を縮める様に丸くなり、
両耳をふさぐチェギョンの元へと歩みを進めた。
 
何がどうなっているんだ―――
『ヒョリンの話なんて聞きたくない・・』って…
動揺する心と裏腹に、落ちつき払った自分もいる
やはり僕は骨の髄まで、皇太子なのだろうか――――
取り乱すチェギョンを見ても、駆けよることもなく、
ただこれ以上、刺激しないようにと、ゆっくりと距離を縮めていく
 
 
 
 
カツン・・カツン・・・
室内に響くシンの靴音
 
あぁ… シン君が近づいてきている
まるで死刑宣告を受ける様だわ
 
心が…身体が・・引き裂かれそう
 
 
 
 
「大丈夫か… チェギョン。」 シンの手が震えるチェギョンの肩に触れた。
 
 
ビクンっとチェギョンの身体は大きく跳ねた。
そしてフルフルと両手で耳を塞いだまま頭を横に振ったチェギョン。
ぽたりぽたりとスカートには涙滲みが広がっていく。
 
 
「ヒョリンの事だが…」
チェギョンが先に口にした名前
何故にその名前に怯え、肩を震わせるのか
シンはその理由を聞き出さんと、その名をあげた。
 
 
 
「知ってる・・
 帰国してるんだよね…。」
もう逃れられない。
覚悟を決めた様にチェギョンはゆっくりと両耳を塞いでいた手を下げる。
 
 
「あぁ…。」 そう・・インは言っていたな。
「でも、どうしてその事を?」
 
 
「シン君の・・誕生日パーティーの
 招待客のリストに・・名前があったから…」
ポツリポツリと、声にならないほどの小さな声で言葉を紡ぐチェギョン
 
 
「そうか・・。」
正直、僕は気にもしていなかった
コンから受け取ったリスト
すべてに目を通した訳じゃない
最初の方を見て、例年と変わりない事に気づき、コンに確認をしただけで――
『昨年と変わりありません』
その言葉で、すべてを良しとした。
その直後、
妃宮のドレスが決まりましたとデザイン画を見せられたというのに
僕の忠告にはやはり耳をかさなかったのか――
落胆と憤りでコンにまで大きな声をあげてしまった。
なぜ、そこまであのドレスに固執するのか
そんな理由を聞くことさえもしなかった。
 
ただあいつは宇宙人で… 僕を全く寄せ付けない
そう、自分で行き場のない想いを納得させて。
 
だけど今、ここで肩を震わせて涙するこいつを見ていると
僕は何か大きな間違いを犯していたのではないかと思う。
 
「チェギョン…」
僕は歩み寄る為に、彼女の名を今一度、声にした。
 
 
 
 
「ねぇ・・そんなにも…ヒョリンの事が好き?」
俯き、ギュっとスカートを握りしめ、チェギョンが尋ねる。
 
遠く離れても忘れられないほどに、シン君はヒョリンの事が好きなの?
ヒョリンが留学してからはシン君の口からその名が出ることはなかった。
だけど、その事が逆に私を不安にさせた。
婚姻前のシン君との約束
婚姻後の誕生パーティーでは、2人の関係をまざまざと見せつけられ…
そして自信に満ちた笑みを浮かべ、ヒョリンは留学へと旅立った。
私の立ち居る隙など微塵もないとばかりに――
 
会えないのに2人は繋がっている
だけど―― ひとつ屋根の下に住んでいても私達は・・
 
 
 
歩み寄ろう… そう思い声をかけたのに
彼女の口から出た言葉は、そんな僕の気持ちにブレーキをかけた。
「今更・・何を…。」
僕にとっては既に過去の事なのに――
 
 
 
「私ね、見ちゃったの…
 ほら、皇太后様と一緒に
 済州島のテディベア博物館に公務でいったじゃない。
 その時に、カメラを借りにシン君の部屋に入った時に・・」
 
 
一体、何を見たのだろう
 
 
「ヒョリンとの思い出がいっぱい詰まった箱を―――。」
 
 
「 !! 」
あれは処分するにも困って、一纏めに箱に入れたんだ。
ヒョリンが帰国したら、返そうかと―――
 
 
「大事なんだよね・・」
 
涙を流しながらも、確認するように顔をあげたチェギョン。
その清らかな涙にシンは言葉を失った。
 
 
 
沈黙が答えなのだろう
もうこれ以上は何も聞きたくはない。
シン君の口からはやっぱり聞きたくないや…
ヒョリンの事が好きだなんて――
「ねぇ、今年の誕生日は、シン君の傍に居てもいい?」
せめてその日だけは一緒に過ごしたい。
ヒョリンが帰国しているにしても…
来年は、もう一緒に居られない気がするから。
 
 
「―――当り前だ。」
肩においた手を、チェギョンの涙を拭うべく頬へと伸ばそうとするシン。
だが、その手を擦り抜ける様にチェギョンが席を立った。
 
 
「じゃあ、私はパーティーの準備があるから…。」
ウソじゃない
だけど、只、今は此処から逃げ出したい。
『当り前だ――』
これはたぶん…シン君からの最後のプレゼント
私もシン君への最後のプレゼント、頑張って作らなきゃ・・
 
チェギョンは足早に部屋を後にした。
 
 
 
 
 
あれっ… 順番的には浮上するんじゃなかったの?
そう思われていた皆さん
ミアネ~
hyはかなりイケズらしいっす 
どうぞ言いたいことはコメ欄へ
 
期待を裏切った分、皆さんの悲鳴?罵声?をお聞きします<(_ _)>
 

my lovely cupid 9

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あんなにもウザかったギョンが、何も言ってこない。
そればかりか休み時間までも勉強している時がある・・
一体、何があったんだか…
休み時間、雑誌のページを捲るシンの手が止まる。
 
 
「はぁ―――、そんなにも水着なお姉ちゃんと戯れたいのか・・ギョンの奴。」
呆れたようにギョンの背中を見つめながらインが呟いた。
「どうせ振られるだけなのに…
 ひと夏のアバンチュールなんて、甘い夢を見てるんなら、無駄だぞ、ギョン。」
 
そんな冷やかしの声にも耳を傾けることなく、ギョンはペンを走らせる。
 
「あぁ――― マジでつまんねぇ・・」 インはふらりと席を立ち、教室を出ていく。
 
 
そんなインに構うことなく、ファンはいつも通り、シンにカメラを向け、まわしている。
そしてインが席を外したと同時に一人ごとを呟くかの如く話しだす。
「ギョンの奴さぁ、今度のテストで数学60点以上取ったら、告白するんだってさ…。」
 
 
「・・・・・・。」
なに・・?  思わず雑誌から視線を外し、ファンを凝視したシン。
 
 
「驚いた?」
「俺も驚いた。 60点なんて無理だろ~って」
赤点・追試・補習の常連のギョンだ
「だけどさ、それよりも何がギョンをあれほどにまで駆り立てるのかってね。」
「今までだったら、告白だなんて畏まらずに、速攻で、かる~く告って撃沈してたのにな。」
「それだけ、今回は本気ってことなのかな…。」
 
 
「・・・・・・。」
 
 
「あっ… 今の話、インには内緒ね。
 変に冷やかし半分で応援されたくないだろうし・・
 今回ばかりは、俺もギョンのこと、ちゃんと応援してやりたいから。」
「本当は俺にも言いたくなかったんだろうけど、藁にもすがる気持ちだったんだろうね。」
ファインダー越しにシンを見ながら、ファンは話を続ける。
「ところでさ、シンとチェギョンちゃんって、どういう関係?」
 
 
「ど・・どういう…関係って?」
唐突な質問に焦るシン。
 
 
「ん… だって、いつだったか、あの子ともめてたんだろ?」
「シンがあっちの校舎に行くなんて珍しいし… しかも女の子の肩を掴むなんてさ。
 普通じゃないだろう?」
ファインダーから眼を逸らすことなく、ファインダー越しにシンを見るファン。
「シンは有名人なんだから、ちょっとしたことでもすぐ噂になるんだよ。」
 
 
あぁ…そういうことか・・
「別になんでもない。」
ファインダーの向こう側、少しばかりあがるファンの口元が気になる。
 
 
「なんでもないか…。」
 
 
「あぁ…なんでもない。」
 
 
「じゃあ、俺の気のせいかな…
 この前、練習室のヒョリンじゃなくて、渡り廊下の方を見てた気がしたんだけど…。」
 
 
「 !? 」
「気のせいだろう…。」
 
 
「でもヒョリンがシンに気づいて、軽く手をあげてたのに、気づかなかったよね?」
 
 
「渡り廊下の方が騒がしかったから―――。」
 
 
「ふ~ん…
 今までのシンなら、そんな方は絶対、見ようとしなかったけどね。」
 
 
そうだ…
騒がしい輩など見ることはなかった。
僕を見てはしゃぐ女の子2人の奥にたまたまキャンバスに向かう彼女が目に入ったから…
「たまたまだ…。」
そう言ってシンはまた雑誌に視線を落とす。
 
 
「たまたまね…  じゃあ、これ・・巻き戻してみる?」
 
 
「 !! 」 
ファインダーから視線を外し、ジッとこちらを見るファン。
あぁ… こいつはある意味ギョンよりもウザい。
シンは小さく息をつく。
「なにが言いたいんだ?」
 
 
「協力して欲しいんだ、シンに―――。」
 
 
 
 
 
 
 
『全く…ファンの奴・・』
「チッ・・」と小さくシンが舌を鳴らす。
 
「げっ・・ 俺、また間違ってる?」 恐る恐る視線をあげ、シンを見るギョン。
 
「いや…。」
 
「はぁ――、良かった。」
「でもさぁ・・またシンが勉強会に顔を出してくれるとはな♪」
 
 
「ファンがどうしてもって・・。」
ファンが協力して欲しい…そう言ってきたのは勉強会の事だった。
意外な頼みで少しばかり気が抜けた
1人で2人を見るよりは2人で1人ずつを見る方が効率的だと。
しかも最初はシンが請け負った事なんだから、協力してくれるよね?と―――
 
 
「俺が頼んでも、全然、取り合ってくれなかったのにな…。」
 
 
「ウザい・・ 口を動かす暇があるなら、手を動かせよ。」
どんな風に顔をあわせていいかわからなかった。
それにギョン… おまえに利用されてるかと思うと癪に障る。
僕の事が好きな彼女を・・
 
 
「はぁ―――、やっぱシンは厳しいよなぁ…。
 いいよなぁ… チェギョンはファンで・・」
ギョンは恨めしそうに、対角線上の出入り口付近の席に眼を向ける。
 
 
「おまえはファンよりも僕の方が良かったんじゃないのか?
 確か・・最初にそう言ってただろう――。」
不機嫌そうにシンの眉がピクリとあがる。
 
 
「そうだった・・っけ?」
 
「あぁ・・厳しい方がいいってな。」
 
諦め半分で問題集に再び視線を落とすギョン。
そんな時、ファンとチェギョンの楽しそうな声が聞こえてくる。
 
 
「うわっ、惜しいな、ここ…  でも他はあってるよ。」
「ほんとに!?」
「あぁ。 はい、じゃあ、御褒美にこれ。」
「きゃあ~♥ このチョコレート、すっごく美味しいんだよね。
 この前、雑誌に取り上げられてたけど・・。」
 
 
「シン… 俺も褒めてもらった方が伸びるタイプだと思うんだが――。」
捨てられた子犬の様な眼差しをシンに向けてみる。
だが―――
 
「褒める部分がない。」 
 
一蹴されるギョン
 
 
 
 
一体、僕は何をしているんだ。
 
僕の事が好きらしい・・そんな彼女の事が気にかかる。
いや、そんな事を知る前から、
疑われながらもいい訳すらしなかった彼女が気になってはいた。
そして、キッと強い眼差しを向けたかと思えば、グッと涙を堪えてみたり・・
 
気になってはいたものの、接点はなくて
校舎も違えば、出会うことは皆無に近い…
だから、偶然見かけては、眼で追っていた。
渡り廊下で課題をする姿とか…
自転車に乗って帰る姿とか・・
 
チョコレートひとつで、あんなにもはしゃいで…
そんなにも美味いのか?
 
僕は無防備にも彼女を見てしまう。
教室の端と端・・
ファンと彼女が僕に背中を向けているのをいい事に… 
 
 

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僕に背を向けて座る2人
そのせいで彼女の表情はあまりよくは見えない
今は困った風に眉尻を下げているのだろうか…
 
っていうか―――
なんであいつらは隣同士に座っているんだ?
僕らは向かい合わせなのに…
 
ファンって、女の子の話とかもあんまりしないけど
扱い方は慣れてるっていうか…
 
 
そもそも、なんで僕がギョンの担当なんだ?
 
 
 
僕の事が好きな彼女
彼女は僕の姿を見て、目をまん丸く見開いて固まった。
僕が此処にいるというのが予想外だったのだろう。
そんな彼女をファンはスッと連れ去ってしまった。
『チェギョンちゃんは俺が担当だからね…』 そう言って・・
 
彼女はペコリと僕に軽く頭を下げて、ファンのあとをついていく。
【えっ・・ それだけ…】
僕は何を期待していたんだろう
彼女に何か言って欲しかった?
顔はあわせ辛い・・ そう思っていたのに?
 
 
 
「よしっ、できたぞ! シン♪」
 
指示していた分までの問題をやりきり、期待の眼差しで僕を見るギョン。
『褒めて♥ 褒めてくれよ~♥』
尻尾を振り、御褒美を待つ犬のようだ―――
 
「じゃあ、次はここまで。」
シンは口数少なく問題集のページを捲り、指示を出す。
 
「げっ・・ ちょ…ちょっと多くないか?」
 
「基礎的な計算問題だ。今のおまえにはちょうどいい。」
いや…おまえにちょうどいいんじゃない
僕にとって都合がいいんだ。
おまえに邪魔されなくて――
 
彼女の事が気にかかる
自分でもよくわからない感情と苛立ち
これは、いったい何なのだろう・・
 
 
 
下校時間の10分前
ファンと彼女が席を立つ
どうやら、今日はおしまいらしい。
彼女はちらりと振り返る様にこちらを見たものの、
まだ勉強しているギョンを気遣ってか、声もかけることはない。
声を顰めるようにして
「ファン君、どうもありがとうね♪ バイバイ。」
ニコッと微笑み、小さく手を振ると、カバンを手にそっと教室を出ていく。
そして彼女を見送ったファンが荷物を纏めて、こっちにやってくる。
「ギョン、頑張ってるな~。」
 
「えっ、ファン、もう終わったのかよ。早くないか?」
時計をチラリと見やるギョン。
 
「そうか?
 でも今日、予定してた所までは終わったし…。」
 
 
 
 
僕は彼女と話す事もないまま、ただぼんやりと彼女を眺める
こんな毎日がテストまで数日続いた。
これがファンの策略だとは気づかないままに―――
 
 
 
 
 
 
テストを終え、結果が出た。
ギョンの結果は63点… 辛うじて目標の60点をクリア―していた。
 
 
「おい、見ろよ! 63点! 63点だぞぉ―――!」
答案用紙をひけらかし、大喜びのギョン。
 
「おまえ、たかが63点だろう・・ そんなに喜んで・・バカ丸出しじゃねぇか。」
呆れたように呟くイン。
 
「そんなこと言って、インなんか62点じゃないか!」
ギョンがインの答案用紙を覗き込んで言う。
 
「うるせぇ、黙れ、馬鹿ギョン!」
 
 
そんな2人の小競り合いを見ながら、ファンはシンに話しかける。
「シンのおかげだね~。
 これでアイツは告白できる。」
 
 
「あぁ… そうだな。」
そうだった…ギョンは彼女に告白する為に頑張ってたんだっけ・・
すっかり忘れてた。
苦笑いを浮かべたシン。
 
 
「シン、マジでありがとうな♪ ファンも♪」
ギョンがインを振り払い、シン達の元にかけてくる。
 
「よかったな、ギョン♪」 ファンも嬉しそうにギョンの胸に拳をあてる。
 
「おぉっ、今ならなんでもやれそうな気がする♪」
「まぁ、ダメ元だけどさ… でも俺、今回は簡単には諦めないから。」
ギョンもファンに応えるようにファンの胸に拳をあて、ニッと微笑んだ。
「取りあえず、チェギョンの奴にも報告しとかなくっちゃな♪」
そう言うと、ギョンはポケットから携帯を取り出し、嬉しそうに廊下へと消えていく。
 
 
「さっそく告白か・・」 ポツリ、シンが呟くように言う。
 
「あぁ、そうかもね…
 なんせギョンの白鳥はチェギョンちゃんの親友だからな。」
ギョンの背中を追いかけるように見つめながらファンが呟く。
 
「 !! 」
ギョンの好きな子は――― 
 
「なに、拍子抜けした様な顔してるの?」
チラリとファンはシンの方を見る。
「今、ちょっと、ホッとしただろう。」
 
 
「はっ、何が――。」
 
 
「気になるんだよね?
 シンはチェギョンちゃんのこと。」
 
「別に…。」
 
 
小声で2人、そんな事を言いあっていると、
さっきまでと様子が違うギョンが教室に戻ってきた。
シンとファンは顔を見合わせる。
「まさか… もう、振られてきたとか・・?」
 
「おい、ギョン・・ どうかしたのか?」
そのまま2人の前を通り過ぎていきそうなギョンに、ファンは腕を掴み、声をかける。
 
「ファ・・ ファンっ!」 ファンを見るなり抱きつくギョン。
 
「おいっ、なんだよ急に・・ 苦しいだろう!」
 
「やっちまった…。」
 
「はぁっ、何をやっちまったんだよ?
 おまえがハメを外すなんてことはいつものことだろう。」
迷惑そうにファンは力をこめて、ギョンの身体を引き離す様に胸を押す。
 
引き離されたギョンは両手で頭を抱えてその場に座り込んだ。
「俺、自分のことで浮かれててさ…
 チェギョンも良かったねって、喜んでくれてたから・・。」
 
 
「だから―― それがどうしたんだ。
 いつものおまえじゃないか・・。」
 
 
「アイツ・・ とれてなかったんだ。」
 
「えっ…。」
「もしかして、赤点なのか?
 ウソだろう? あれだけ勉強してたのに?」
勉強会でのチェギョンは完璧ではないが
基本的な問題は解けていて、赤点などとりそうにはなかった。
 
 
「赤点な訳ないだろう!」
 
「じゃあ・・」 何がとれてなかったんだ?
 
 
「チェギョンも俺と同じ目標を持ってたんだよ。」
 
「同じ目標って…まさか・・。」
ファンは慌てて、ギョンをその場から連れ去るべく手を引いた。
「ギョンっ、落ちつけ! ちょっとこっちに来い。」
ファンはチェギョンの好きな人がシンであることは知らなかった。
ただシンにチェギョンが好きな人がいることを聞かれては…
そう思い、ギョンをシンのいる場所から遠ざけたのだった。
 
 
 
人気のない階段の踊り場で2人は話をする。
 
「もしかして、チェギョンちゃんって好きな奴がいるのか?」
 
「あぁ… いるよ。」
 
「マジかよ…」 今度はファンが頭を抱えてしゃがみ込む。
 
「まさか、ファン、おまえ・・・」 目を見開き、絶句するギョン。
 
「はぁっ、いやっ、それは違うから―――。」 ファンは慌てて否定する。
 
「でも、ファン…」
よく考えれば勉強会も協力してくれてたし・・
チェギョンは俺たちの周りにいないタイプで、ファンが興味を持っても不思議じゃない。
 
じぃっと疑いの眼で見るギョンに観念したようにファンが口を開く。
「僕じゃない――
 シンがチェギョンちゃんに、気があるんじゃないかと思ってさ。」
 
 
「へ・・
 シン?  シン―――――――っ!」
 
「バカっ! 声がでかいんだよ!」
 
 
「な… なんでシンが・・。」
 
「シン本人は否定している。
 だけど・・俺は間違いはないと思う。」
 
「なんだよそれ・・ あてにならないじゃん…。」
「だけど、それが本当なら、
 チェギョンが告白出来てたら、うまくいったかもしれないってことだよな?」
 
 
「もしかして、チェギョンちゃんが好きなのって・・ シンなのか?」
 
 
「・・・・・・。」
あぁ、俺ってなんて口が軽いんだろう・・
そう思いつつもギョンはコクリと頷いた。
 
 
「じゃあ、俺にいい考えがあるから―――。」
ファンはギョンに計画を話しだす。
 
「でも…それって・・。」
 
「大丈夫さ・・きっとね。
 
不安げなギョンとは対照的に、ファンは自信ありげに微笑んだ。
 
 
 
 

お知らせ☆求む! チャレンジャー (^^ゞ

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  秋・・
    せつなな予感・・・
 
   
 
     
   って・・マジッすか?
   私的には初夏の桃祭りの方がしたかったんですけど…
   
    季節は既に秋
   多数決にて完敗です
  
 
   hyの苦手分野やのに
   「イヤや~~~、イヤイヤ!」
   って、ダダこねてたら、
    
    「んじゃ、コラボるべ」
 
    「はぁっ!? はぁ――――――っ!」 (撃沈)
 
 
  
   そんなこんなで
 
      第一話、本日9/24☆先行UP
 
 
 
   せつなですから・・
   冒頭話は私じゃありません
   そそ・・もちろんあの方です
   (こんな無茶言うの・・ふらちゃんしかいないでしょ)
   
 
 
   ちなみに大筋なイメージ画がこちら
       ↓↓↓
 
 
 
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  「うぎゃっ!」って絶句したのは私だけじゃないはず…
  
 
 
  そして何故、第1話を先行UPするのか・・・
  「それはタイトルが決まらないから――――!」
 
 
   って事で、募集いたします!
   第1話を読んで、タイトルを考えてください(爆)
   思いついたタイトルはこちらのコメ欄
   もしくはふらちゃんがUPする第1話のコメ欄にお願いします♥
    
 
     私達、タイトル考えだすと手が止まるんですよ (T_T)
      完全フリーズ状態・・
      タイトル決まんなきゃ、次、進めんのです…
      なので協力していただけるとありがたいです♥
      軽~い気持ちで・・ 思いつきで、どうぞ 
     
 
      『 求む! チャレンジャー! 』  
 
 
 
  はぁ…
   去年は確か『せつなweek』が『せつなseason』になった方がいた様な・・
  
 
   もちろん、今回も参加していただきますよん♪
  ひろろんさ~~ん、ノモスさ~~~ん、よろしくでございます 
 
 
 
♢♦♢♦♢♦♢♦♢
 
  
   チャキチャキの部屋  ひろろん
 
   ノモスの茶の間  ノモス
 
   風船みたいに  fluff (←本日1話目スタート!)
 
    
  以上の3名と、此処の管理人☆hyを加えた4名でお送りいたします
 
 

my lovely cupid 11

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澄み切った蒼い空
心地よい風
 
今日は告白日和♪  
チャン・ギョン・・ 男になりますっ!
 
って―――
軽く握りしめた手、小さくガッツポーズを決めてみる
だけど… その手には汗がじわりと滲んでいた…
 
約束した時間より早くに待ち合わせ場所に来たギョンは大きく深呼吸をした。
 
 
 
 
はぁ…
今日の俺・・責任重大だよな・・
まったく、ファンの奴
 
シンとチェギョンをくっつけるのにてっとり早い方法が、
俺がガンヒョンさんと付き合うことだなんて…
確かに俺とガンヒョンさんが付き合う様になれば
必然的に双方の友達である2人が顔を合わせる機会も増えるだろうけど―――
 
『ギョン、頑張れよ…
 おまえが上手くいかないと、たぶん、
 もう、シンとチェギョンちゃんの接点は無くなっちゃうからさ♪』
 
ファンの奴・・ 
にこやかに、最後にすんげぇプレッシャーなひと言を投げかけやがって
何がいい考えがあるだ…
 
でも、なんであんなに自信ありげだったんだろう?
もしかして、俺がうまくいくって信じてくれてるとか?
やっぱ、俺って結構イケてるのか―――
 
少しばかり顔がにやけてくる
 
 
 
「おい・・いつもながら、随分としまりのない顔だな…。」
 
「 !! 」 振り返り、声の主を見て驚き固まるギョン・・
「えぇっ… なんでシンが此処に・・。」
 
「ファンに―― 呼び出されたんだ・・。」
 
「ファンに?」
な・・なんで… ファンの奴?
今日はテストも終わったことだし、
パァーっと遊びに行こうってファンの奴が提案して…
男2対女1ってのも――って話になって、
チェギョンの奴が気を利かせてガンヒョンさんをよんでくれて・・
頭の中を整理しながら思い出すギョン。
やっぱり、シンの事なんて…ひと言も言ってなかったよな。
 
 
「…ったく・・ なんでこんな人の多い駅前なんかで待ち合わせなんだ?」
帽子を眼深に被り直しながら、不機嫌そうにシンが呟く。
 
「それはだな、今日はチェギョンとガンヒョンさんと約束してるからだ。」
 
「なに・・・?」 ピクリとシンの眉があがる。
 
「・・・・もしかして… ファンの奴、シンに何も?」
 
「・・・・・・。」
 
あぁ…無言であることがすべてを顕しているな…
ギョンの額にいやな汗が滲む
そんなギョンのポケットの中の携帯が着信を知らせる。
ディスプレイにはファンの名前
ギョンは、すぐさま通話ボタンを押すと縋る様に声を発した。
「おい、ファンっ! おまえ、今、何処だよ!」
 
「あぁ… 悪い・・急用ができちゃってさ、行けなくなっちゃった。」
 
だが、ギョンの携帯は既にシンに奪い取られ・・
「行けなくなった?」
 
「あっ、シン♪ ちゃんと来てくれたんだね。」
悪びれた風でもなく、サラリというファン。
 
「どういうことだ、ファン?」
 
「だから急用ができてさ…。」
 
「そんなことはどうでもいい! どうして、シン・チェギョンも―――。」
 
「あれ… 言ってなかったけ?」とぼけるファン。
「取りあえず、今日はギョンの為にセッティングしたんだからさ…
 シンは邪魔だけはしないように頼むね。」
 
「じゃあ、邪魔にならない様に僕は帰るとしよう…。」
 
「それ、邪魔以前の問題…。」
 
「なに?」
 
「だってさ、女の子2人にギョンだと、どう考えたってギョンが邪魔だろ…
 女の子達はギョンを放置で2人で盛り上がる。
 そうなったら、この計画はパァーだ。
 頑張って60点以上をとったギョンが可哀想だと思わないか?」
 
「・・・・・・。」
別にギョンことはどうでもいいが…
 
「いや… ギョンの気持ちを知ってるチェギョンちゃんなら気を使うから、
 チェギョンちゃんがあふれて寂しい想いをするのかもなぁ…。」
 
「・・・・・・。」
寂しい・・想いか…
涙をグッと我慢していた時のチェギョンの表情を思い出すシン。
 
 
くくく… この沈黙、考えてるよな、シンの奴。
携帯の向こう側・・シンの様子を想像するファンの口元が微かにあがる。
「あぁっ、ヤバイ…  充電が切れる―――」 慌てたファンの声
そして・・
『プゥ――― プ―――』 無情な機械音
 
 
シンは携帯をゆっくりと耳から離した。
 
 
 
 
♦♢♦♢♦
 
充電など切れてはいない
ファンは自身の指で通話をきった。
 
これでたぶん大丈夫だろう。
この計画を思いついた時から、ファンは自分ではなくシンを行かせようと考えていた。
 
ギョンにはおまえの告白にかかってる―― みたいに言ったけど…
ギョンが恋した相手、イ・ガンヒョン
リサーチしたところ、冷静で頭が切れるタイプ。
ギョンが告白したとして、すんなりと受け入れるとは思わない
 
これは2つのカップルをうまく行かせるための最善の方法
たぶん、シン自身は動かない。
そしてチェギョンちゃんも―――。
だけどチェギョンちゃんの気持ちを知ってるガンヒョンさんなら…
シンとチェギョンちゃんを2人にしてやろう・・なんて気を利かせる筈だ。
そうなればギョンにだって2人きりになれるチャンスが生まれる
一石二鳥ってわけだ。
 
「さてと…。」 ファンは車のエンジンキーを差し込んだ。
 
 
 
♢♦♢♦♢
 
無言のまま、シンは押し付ける様にギョンに携帯を返す。
 
「で・・ファンは、なんだって?」
携帯を受け取りながら、恐る恐るシンに尋ねるギョン。
 
「急用ができたから来れないそうだ…。」
 
「えぇ――――っ、 マジかよ…。」
俺っちのデートのはずが…シンの子守りに変更かよっ!
それに今日の告白・・俺はファンのアドバイスを結構、期待してたんだぞっ!
シンじゃ、何の役にも立たないじゃないか―――
ショックに打ちひしがれるギョン。
そこに・・
「おーい、ギョン君♪」 
手を振りながらこちらへ向かってくる2人の姿が目に飛び込んできた。
『白鳥♥』
先程までの落ち込みは何処へやら・・ 
制服姿も素敵ですが私服姿もかなりいいです!
ギョンのテンションは一気にあがる。
 
 
「ごめんね、待った?  …って・・ あれっ、ファン君は?」
キョロキョロと辺りを見回すチェギョン
 
「えっと… ファンは今日は急用ができたらしくて…
申し訳なさそうにそう告げた後、ギョンは自身の背中側にいるシンの方へ視線を向ける。
その視線を追う様にガンヒョンとチェギョンはギョンの背後を見る。
帽子を眼深に被り、口元は手で覆った男が一人。
 
「あっ…」 チェギョンは気がつき、小さな声を漏らす。
「まさか・・皇太子・・殿下?」 ガンヒョンは眼鏡を整えるようにしてシンをジッと見た。
 
「あはははは… 正解。」
そう言うとギョンは振り返り、むんずとシンの腕を掴んで、自分の横に引っ張り出した。
 
「な・・なんで皇太子殿下が?」 チェギョンの代わりにガンヒョンが驚きの声をあげる。
 
「ファンがかわりにって…」
 
「そう・・なんだ。」
代わりに…って言ったってねぇ・・
ガンヒョンは隣にいるチェギョンの様子を確認する。
 シンとチェギョンは俯きがちで、2人とも視線をあわせない。
そんな2人を気遣う様にガンヒョンが積極的に口を開く。
「だけど、大丈夫なの? こんなに普通に、殿下が此処に居ても?」
 
「まぁ、大丈夫なんじゃないか?
 まさかシンがこんな風に女の子連れで遊んでるとはだれも思わないだろうし…。」
シンのせいで、ガンヒョンと過ごせるチャンスを無駄にはしたくないとばかりに
頑張るギョン。
「それに、シンの奴、今どきなデートをしてみたいって言ってたし…。」
 
「・・・・・・。」 俯きがちだった視線をギョンに向けたシン。
そんなことは言ってはいない
それはかつて・・おまえが勝手に言ってたことで…
 
「そうなんだ… じゃあ、問題はなさそうね。」
「まぁデートではないけど、やっと勉強からも解放されたんだもの
 それに、もらったチケットを無駄にしても勿体ないし…
 今日一日、楽しみましょうか。」
微妙な空気を汲み取りながらも前向きに進めるガンヒョン。
 
「だよな♪」
 
「ほら、チェギョンもっ♪」 クイッとガンヒョンはチェギョンの手を引っ張った。
 
「そう・・だよね。」
チラリとシンの方を少しだけ見遣る。
勉強会、後半の数日、殿下とは一緒だったけど、特に何か言われる事もなかったし…
「よぉ~し、今日はいーっぱい遊んじゃうぞぉ~♪」
 
ガンヒョンはクスリと笑う。
「そうよ、チェギョン。 せっかく開園前に間にあう様に来たんだもの。
 全部乗り倒さなきゃね♪」
 
そう言うとチェギョンとガンヒョンはワイワイと言いながら
目的地に向かって歩き始める。
少し離れたその後ろをニマニマと歩き始めたギョンの腕を、シンはグッと掴む。
「おい・・何処へ行くんだ?」
 
「へ? 何処って… 遊園地。」
 
「はぁっ!」
 
「ファンの奴がね、貰ったんだってさ…。」
ギョンがファンから預かっていた4枚のチケットをシンに見せる。
 
「・・ったく…。」
初めからファンは来る気がなかったってことか…
そうでなければギョンにチケットをことづけることはしないだろう。
しかもそのチケットは4枚だけ。
シンはファンに嵌められた事に気づいた。
「チッ・・」 小さく舌を鳴らす。
 
「もしかしてさ… シンって遊園地、初めてだったりする?」
 
「・・・・・。」
確かに…初めてだ。
別に行きたいとも思わなかったしな。
 
「まさか高所恐怖症だったりとかはしないよな?
 ジェットコースターが怖いとかさ…。」
 
「大丈夫だ――。」
 
「なら・・ 楽しもうぜ、シン♪」
 
 
ファンに嵌められたことは癪に障るが・・
これも悪くないかも
そう思ってしまう。
数メートル先で友人と楽しそうに話す彼女を見ていると――
「・・・ わかった・・。」
言葉少なく、シンは応えた。
 
 

更新案内と御礼

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おはようございます (^o^)丿
 
my  lovely  cupid  11
 
更新いたしました♪
 
皆さん・・ギョン君には期待していない模様・・
でもっ
うちのギョン君はできる子なんです!
そう… たぶん・・ きっと…
 
 
 
そして
タイトル募集にチャレンジくださった方々
ありがとうございました♥
 
もう・・ふらちゃんちのコメ欄、大変なことになっちゃったようで…
だけど
 
無事に決まりました♪
『FOOL×FOOL
 
バカ2乗?
それって私の事かいっ!って思いながらも
可愛らしいし、いいかなって…
 
 
ヒョリンがで―んって出張ってきそうで、
皆さんの拒否反応がビシバシと伝わってきておりますが
昨日、第2話がひろろんさん宅で公開されました♪
 
 
取りあえずタイトルに反して、
私はお馬鹿封印で頑張りたいと思います
 
ではでは <(_ _)>
 
 

Fool×Fool 3

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シンの指先が会話を閉じた。
 
みんなでか…
そこにはヒョリンも含まれる――  そういうことか
シンは小さく息を吐き出しながら、天を見上げると軽く目を閉じた
 
 
『私を待たなかったこと… 後悔するわよ』
そういって自分の夢を叶えるべく旅立ったヒョリン
 
 
「後悔か…」
シンはポツリと呟いた。
 
 
 
 
♢♦♢♦♢
 
『好きにすればいい。』
相変わらずの冷たいシンのひと言。
「みんなで行くよ。
 今年もチェジュ島なんだろ?それでさ――」
ふと見上げたインの視線の先に一人の女性の姿が映る。
 
ヒョリン・・
 
その姿を捉え、インは一瞬息をのんだ。
 
 
 
「イン・・」
インの姿を捉え、にこやかに手を振り、ヒョリンはインの元へと歩き出す。
 
 
 
 
帰国してきたヒョリンから買い物に付き合って欲しい
そう言われて、このカフェで待ち合わせをしていたイン。
デートでもないのに、落ちつかなくて
待ち合わせよりも早くにこのカフェに来ていたインは
コーヒーを頼み、もて余す時間を潰そうと携帯を手にとると
ふと思い出す様にシンに電話したのだった。
久々に会うヒョリンは留学する前よりも、髪は伸び、
メイクも施しているからか、随分と大人びて見え、インは言葉を失った。
 
 
「久しぶりね、イン。」
 
「あぁ…久しぶりだな・・ ヒョリン。」
挨拶を交わしてから、インは手にしていた携帯の存在を思い出し、
慌てて耳元へとあてがった。
だが聞こえてきたのは沈黙でも何でもなく、
通話が切られたあとの機械音のみだった。
ホッと胸を撫で下ろすイン。
 
 
「誰かと電話中だったの?」
 
「あぁ、ギョンとな…」 
咄嗟にウソをついた
別にウソなんてつかなくても良かっただろうに
 
 
「そう…
 ねぇ・・みんな、元気にしてる?」
電話の相手のことなど気にならないとばかりにヒョリンが近況を尋ねてきた。
 
 
『みんな』
ヒョリンはひとまとめにしたが聞きたいのはシンの事なのだろう
そんなことはわかっている。
だがインは当たり障りのない言葉をヒョリンに返す
「あぁ… みんな元気にしてるよ。
 大学が別になってあまり会うことはないけど、
 連絡は取り合ってるし、都合がつけば飲みにもいくしな…。」
ただし、それはギョンとファンだけのこと
近頃のシンは乗馬クラブにさえも顔を出さなくなっていた。
「ヒョリンは留学先ではどんな生活を送ってたんだ?」
今のヒョリンとシンの話はしたくはない…
そう思ったインは話題をヒョリンに向けた。
 
 
「今までと変わらないわ。毎日がバレエ漬けよ。」
ヒョリンはフッと息を吐くと小さく眼を瞑った。
 
いや、今まで以上に厳しい世界だった。
レベルの高い練習にライバルがひしめき…
練習を終え、帰る場所は寄宿舎での共同生活
身体も心もゆっくりと休める場所なんてなかった。
 
別に話すような事はないと言わんばかりのヒョリンの態度に
インは他の話題を探し始める。
だがヒョリンは
 
「シンは―― どうしてるの?」
 
 
今度は単刀直入に尋ねてきた。
「シンは… 公務が忙しいのかほとんど会うことはない。
 まぁ、たまにTVに映る姿をみれば元気なんじゃないのか。」
実際、あまり接してもいない。
どうでもいいような、誰でも知っているような事をヒョリンに告げる。
もうシンの話題に触れなくてもいい様に・・
 
 
「そう…。」
ヒョリンの口元がホッとした様に少し緩んだ。
 
 
そんなヒョリンを見て、ずっと喉の奥にしまいこんできた言葉をインは口にした。
「いい加減に諦めたらどうだ――。」
 
 
「何を諦めろっていうの?」
少し緩んだと思われた口元がきつく締められる。
 
 
今日、ヒョリンに出会う前までは、
以前の様に、自分の気持ちはさておき
ヒョリンの望むようにしてやろう・・そう思っていたのに…
インはテーブルの下、自身の手を硬く握りしめた。
「シンは結婚したんだ―――。」
 
 
「わかってるわ、そんなことぐらい…。」
 
「じゃあっ!」
 
身を乗り出したインを置いて、ヒョリンが席を立つ。
「今日は買い物にいく気分じゃなくなったわ。」
 
「ヒョリン・・」
 
 
「インは・・私の一番の理解者だと思っていたのに…。」
ポツリとそう言い残し、ヒョリンは店を後にした。
 
 
 
 
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既に1話目はふらちゃんが・・
2話目がひろろんさんが
   UPしてくれております
 
私で3話目・・・
 
となると、
次はノモスさんですかね(笑)

Fool×Fool 7

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せっかくでてきたんだもの…
ヒョリンの脚はまた人の多く行きかう場所へと向かう。
 
 
シンの誕生日
何をあげれば喜ぶかしら
 
 
遠い異国の地ではシンの情報なんて探さなければ眼にすることもなかった。
それは私達の今の距離を顕しているようで
 
大学には結構ラフな服装でいってるのね
偶然立ち寄った書店におかれたゴシップ紙にその姿を見つけた。
帰って来たんだわ・・この国へ
シンのいる国に
 
探さなくても目にすることができるなんて
昔のようにシンとの距離が縮まった・・そんな気がした
 
でも・・シンの横にいるのは―――
 
「似合わないわね…」 
手にとるのをやめ、ポツリとヒョリンは呟いた。
 
 
 
 
取りあえず、今日はウインドーショッピングだけでもいい
今の流行りも知りたいし…
ふらりと立ち寄ったデパート
これと言って眼につくものはない。
 
「あら・・」 ヒョリンの脚が止まる。
 
 
 
ネクタイ売り場
キャッチコピーに目が奪われる。
 
  『貴女が願うのは・・ 成功?
     それとも・・・  彼自身?』
 
キャッチコピー横に書かれた小さな注意書き
『友人には成功を… 恋人には貴方が欲しい
 そんなメッセージがネクタイにはこめられています』
 
「へぇ… 友人に贈るのと、恋人に贈るのとでは意味が違うのね・・。」
ネクタイにそんな意味があるなんて知らなかった。
 
 
 
「お客様、どなたかへのプレゼントをお探しですか?」
脚を止めたヒョリンに、店員が声をかけてきた。
 
 
「えぇ… 彼に・・」 ヒョリンはにっこりと微笑んだ。
 
 
 
 
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足早にパビリオンから姿を消したシン。
そこに取り残された従者が一人、心配そうに深いため息をつく
 
 
「コンおじさん… どうかしたの?」
向かい側の部屋のドアからひょっこり顔をのぞかせたチェギョン。
 
 
「妃宮様…。」 コン内官は慌てて頭を垂れる。
 
 
「なんだかシン君…難しそうな顔してたけど・・。」
 
 
「はぁ…。」
その一因にチェギョンのドレスが絡んでいるとは口に出せず
ますます困惑の色を深めるコン。
だがチェギョンの視線が自分ではなく、
シンの出ていった方向を追っている事に気づくと、言葉を続ける。
「殿下は皇后陛下の元へ行かれました。」
 
 
「皇后さまの元へ?」 
キョトンと不思議そうに小首を傾げるチェギョン。
そして、何かを思いついたようにハッとした表情を浮かべる。
「もしかして、シン君・・また何か?」
 
 
「は・・?」
また何か・・とは…
チェギョンの表情から察しがついたコン内官
「いえいえ… 殿下の方が陛下にお話があると・・。」
 
 
「そ・・そうなの?」
意外とばかりにチェギョンは目をパチクリと瞬かせる。
じゃあ、なんでシン君もコンおじさんも難しい顔をしてるんだろう?
もしかして…
チェギョンはシンの部屋の前で立ち聞きした事を思い出す。
「もしかして… 私がシン君の誕生日に――」 
 
 
「妃宮様は今年はどのようなプレゼントを―――。」
チェギョンの言葉と重なる様にコンは口を開く
 
 
「へ・・?」
 
「申し訳ありません… 妃宮様。」 慌ててコンは口を閉じ、頭を垂れた。
 
 
「あっ・・・」
「えっと… 今年はネクタイにでもしようかなって。」
 
 
「ネクタイでございますか…。」
意外と言いたげなコンの表情
 
 
「ダメかな?」
 
 
「いえっ、殿下は公務などでスーツをよく召されますから、
 よろしいのではないでしょうか。」
 
 
「そう? そう思う?」
コクリと頷くコン内官を見て、ほっと安堵の色を見せたチェギョン。
「ほら、去年は失敗しちゃったじゃない…プレゼント。」
 
 
「失敗でございますか…。」
 
 
「あぁ、おじさんは知らないんだっけ?」
「私、シン君に恥をかかせちゃったの… 
 学校の上靴にね、絵をかいてプレゼントして。」
それは私にとっても苦い思い出。
「だから今年こそは、喜んでは貰えなくっても、
 シン君が恥ずかしい想いをしなくていいものを贈りたいと思って…。」
 
 
「左様でございますか・・。」
コンは幾度かシンが大事そうに箱を持っている姿を幾度となく見たことがある。
声をかけるとサッと隠す様に箱を閉じる為、
何が入っているのかきちんと見たことはないけれど…
一度だけ見たことがある
青龍の描かれた上靴を――
 
目の前にいるこの方にお伝えして差し上げたい・・
そうすればお二人は…
 
そうは思うものの、やはりそれは自分の役目ではない
それを伝えるのは殿下でなければ―――
出かかった言葉をコンはグッと飲み込んだ。
 
 
話を終え、その場を立ち去ろうとするコンに
チェギョンが思い出したように声をかけた。
「あっ、そうだ! ねぇ、コンおじさん。
 シン君の誕生日会の招待客のリストってもう出来上がってるわよね?」
 
 
「はぁ・・。」
 
「見せてもらってもいいかしら?」
 
 
コンは一瞬、躊躇した。
だが断る理由もない。
「例年通りで、大変わりはしないかと…。」
先程、シンに見せた招待客のリストをファイルから取り出した。
 
 
「ほら、ヒスン達・・今年は招待してもらえるのかなぁって思って…。」
去年、ヒスン達がいなかったら――
私には居場所すらなかった。
シン君の誕生日とはいえ、
今年は私の友人達も少しは招待してくれてるよね。
チェギョンはリストに目を通す。
王族たちの名が連なり、最後の方にシン君の友人達の名が連なる
 
「あっ――」
小さく声を漏らし、チェギョンは口元を手で覆った。
 
 
 
 
 
ひとつ前のお話
『Fool×Fool6』はひろろんさん宅です
 
『うわぁ―――! イケズ!』
そんな声が聞こえてくるような…
私の場合、セツナと意地悪は背中合わせです(激爆)
もうほんと、大丈夫なのか、私 
 
 
 

Fool×Fool 11

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Fool×Fool 10話はこちら
 
では 11話へ 
 
 
 
 
 
チェ尚宮が退出した後、
皇后であるミンは自分付きの尚宮に声をかけた。
 
「すまぬが、妃宮が今年のシンの誕生日にと希望したドレスのデッサンと
 昨年のシンの誕生日会の資料を此処へ持って来てはくれぬか――。」
 
単純に妃宮が着てみたい・・
そう申したドレスがどんなものなのか見て観たかった。
そして去年の様子から
パーティーがどんな感じのものなのか確認しておきたかった。
 
仕立ててやろう――
そう申し出た以上、その場の雰囲気にも妃宮にも似合うものを
持たせてやりたいとミンは思ったのだ。
 
 
ミンはさっそく手渡された資料に目を通す。
『これが妃宮が着たいと申し出たドレスか…』
普段の妃宮からは想像もできぬが――
これが今の流行りと言うことなのだろうか。
やはり自身の若い頃のドレスではなく、新しく仕立ててやるのが良いだろう
ミンは、ふぅっと小さく息をつく。
だが、次に手にしたパーティーの資料を捲るミンの手が急に止まった。
『これは…』
一枚の写真を食い入る様に見つめる
妃宮が着たいと申したドレスと同じデザイン・・
しかも同じ色…
写真の中、グラスを手にするシンの周りを囲んでいるのは
クラスメイトであるチャン・ギョン、リュ・ファン、カン・イン
そして、そこに親しげに混じる一人の女子… 
一体・・
 
『もしや・・』
ハッとしてミンは口元に手を当てた。
 
自身の推測はたぶん間違ってはいないだろう
いくら私の申し出とは言え、今や妃宮に仕えるチェ尚宮。
妃宮が選んだドレスなら、
無理を承知で、その希望をくみ入れて欲しいと願い出ただろう。
だが全く、そのようなことは口にも出さなかった。
私が先に妃宮の希望も聞きたい…そう申したにしろ・・
 
きっとチェ尚宮もこのドレスには反対したのだろう
だが妃宮が譲らなかった
 
 
もう1年も経つというのに・・
それほどまでに妃宮は―――
 
 
 
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尚宮とはいえ、宮中を走ることは許されない。
殿下が陛下に願い出た真意はわからぬが
陛下のお気持ちを早く妃宮様にお伝えしたい。
 
妃宮様は自らドレスの変更を申しだされた。
ご自身の間違いに気付かれたのかと思われたが…
 
『私はいらないね…』
 
ポツリと呟いたチェギョンの言葉がチェ尚宮の心を絞めつける
そんなことはないはずだと ――
 
 
 
漸く東宮殿に辿り着き、ドアをノックする。
「妃宮様、失礼致します。」
だが、返事はない
不安になったチェ尚宮は足早に部屋の奥へと進む
 
「妃宮様、妃宮媽媽!」
 
ベッドの上に座り込むチェギョンを見て、ホッと胸を撫で下ろす。
チェギョンはこちらには背を向けているものの、
そのお尻の下からは豆腐人形の脚が苦しげにのぞいていたからだ。
豆腐人形にやつあたりができるのなら問題はないだろう
少し前に泣いていた妃宮様とは違う。
 
 
「どうかしたの、オンニ?」
 
「妃宮様、陛下がお呼びです。」
息を整えながら、小さく頭を下げる。
 
 
「陛下が?」 とたんに両頬に手を当て、困った風に眉尻を下げる。
「オンニィ・・ 私、何かしたかしら?」
心当たりがない訳じゃない
いや、心当たりがありすぎてわからないといった方が正確か…
 
 
「陛下が殿下の誕生パーティーの席でのドレスを
 妃宮様に贈りたいと仰せられて…。」
 
 
「へ・・・」 
予想外の返答に、目をまん丸くして固まるチェギョン。
頭の中で、チェ尚宮の言葉を繰り返す。
「でも、どうして?」
あまりのタイミングの良さに疑問が口をつく。
 
 
「きっと衣装部担当の者の小言でも耳に入ったのではないでしょうか…。
 陛下は此処に務めるすべての尚宮・女官たちを統率されるお立場ですので。」
 
 
「そっか…、わかったわ。」
確かにあの衣装担当のオンニは凄く反対してたもんね。
チェギョンはベッドから降りると、上殿へ伺うべく服装の乱れを整えた。
そしてパビリオンに出たところで
部屋へと戻ってきたシンと眼があった。
 
「あっ・・・」
何も話さないのも変だ… そう思い、チェギョンはシンに話しかける。
「えっと・・ もうすぐ誕生日よね? どう・・ドキドキする?」
はぁ――、何、訳のわかんないことを聞いてるんだろう私。
あっ…でも、このチャンスにシン君の欲しいもの、聞き出せるかも・・
甘い期待がチェギョンの胸をくすぐる。
 
 
「・・・別に…。ひとつ歳をとるだけだ。 なんら変わりない。」
 
 
「えっ、でも、パーティーでどんな料理が出るのかとか、
 どんなプレゼントがもらえるのかって考えてたらワクワクするでしょ?」
少なくとも私は此処に来るまでは、毎年、誕生日はワクワクしてた。
 
 
「興味がない。」
 
 
「興味がないって――。」
「でも、シン君だって、プレゼントにはこんなものが欲しいとかって
 思ったりするでしょ?」
 
 
「欲しければ自分で買えばいい。」
 
 
「・・・・・・。」
そうよね… シン君ならなんでも自分で買えるよね。
凄く高級で華美なものでない限り、身につけるのも制限はされないだろう
呆気ないほどにシンの欲しいものを聞き出す事に失敗するチェギョン。
 
 
「そう言えば、おまえは今年はどんなプレゼントを僕にくれるんだ?」
 
 
あぁ… 今年は恥をかかせるなって… そう言いたいのね。
「へ・・
 え―――っと・・ まだ決めてない。」
本当はネクタイに決めたけど…
それはまだ内緒
 
 
「そうか…。」 シンの口元がにわかに緩む。
 
 
「あっ・・だけど、安心して。
 今年は去年みたいに失敗しないから!」
 
 
「・・・。」 失敗?
 
 
「去年はほら… シン君の誕生日も知らなかったし、お金もなかったけど・・
 今年は大丈夫だから」
俯きがちに言葉を紡ぐチェギョン。
 
 
「そうか… まぁ、別に期待などしてはいないが…。」
 
 
「・・・・・・。」
期待などしていないか――
そうよね、私のプレゼントなんて、
シン君にとってはあってもなくても一緒って事よね
そう・・それは私の存在と同じ
 
 
「話はそれだけか?」 チラリと後方で控えるチェ尚宮にシンは視線を向ける
 
 
「あっ… うん。」
くだらない… そう言いたいのだろうか
 
 
重い空気から逃れるべく、チェ尚宮が声をかける。
「妃宮様・・ 陛下がお待ちですので…。」
 
 
無言のまま擦れ違う2人
 
 
後方に控えながらもチェ尚宮はシンの表情を垣間見る
だがやはり、その心のうちは見えない。
『妃宮媽媽…』
歩を進めはじめたチェギョンは俯きがちで
チェ尚宮は心配そうにその背を見つめながら、後に続いた。
 
 
 

Fool×Fool 15

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聞きたくない…
 
 
2~3年したら
僕達が大人になったら―――
そう言ったじゃない
 
まだ1年しか経ってないのに
 
シン君はずるいよ
こんなにも好きになるはずじゃなかったのに
 
 
頑なに目をギュっと閉じ、チェギョンは更に強く両手で耳をふさぐ
 
 
 
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「チェ・・ギョン・・・?」
 
シンは手にした箱を、再びサイドテーブルにおくと
ソファーで身を縮める様に丸くなり、
両耳をふさぐチェギョンの元へと歩みを進めた。
 
何がどうなっているんだ―――
『ヒョリンの話なんて聞きたくない・・』って…
動揺する心と裏腹に、落ちつき払った自分もいる
やはり僕は骨の髄まで、皇太子なのだろうか――――
取り乱すチェギョンを見ても、駆けよることもなく、
ただこれ以上、刺激しないようにと、ゆっくりと距離を縮めていく
 
 
 
 
カツン・・カツン・・・
室内に響くシンの靴音
 
あぁ… シン君が近づいてきている
まるで死刑宣告を受ける様だわ
 
心が…身体が・・引き裂かれそう
 
 
 
 
「大丈夫か… チェギョン。」 シンの手が震えるチェギョンの肩に触れた。
 
 
ビクンっとチェギョンの身体は大きく跳ねた。
そしてフルフルと両手で耳を塞いだまま頭を横に振ったチェギョン。
ぽたりぽたりとスカートには涙滲みが広がっていく。
 
 
「ヒョリンの事だが…」
チェギョンが先に口にした名前
何故にその名前に怯え、肩を震わせるのか
シンはその理由を聞き出さんと、その名をあげた。
 
 
 
「知ってる・・
 帰国してるんだよね…。」
もう逃れられない。
覚悟を決めた様にチェギョンはゆっくりと両耳を塞いでいた手を下げる。
 
 
「あぁ…。」 そう・・インは言っていたな。
「でも、どうしてその事を?」
 
 
「シン君の・・誕生日パーティーの
 招待客のリストに・・名前があったから…」
ポツリポツリと、声にならないほどの小さな声で言葉を紡ぐチェギョン
 
 
「そうか・・。」
正直、僕は気にもしていなかった
コンから受け取ったリスト
すべてに目を通した訳じゃない
最初の方を見て、例年と変わりない事に気づき、コンに確認をしただけで――
『昨年と変わりありません』
その言葉で、すべてを良しとした。
その直後、
妃宮のドレスが決まりましたとデザイン画を見せられたというのに
僕の忠告にはやはり耳をかさなかったのか――
落胆と憤りでコンにまで大きな声をあげてしまった。
なぜ、そこまであのドレスに固執するのか
そんな理由を聞くことさえもしなかった。
 
ただあいつは宇宙人で… 僕を全く寄せ付けない
そう、自分で行き場のない想いを納得させて。
 
だけど今、ここで肩を震わせて涙するこいつを見ていると
僕は何か大きな間違いを犯していたのではないかと思う。
 
「チェギョン…」
僕は歩み寄る為に、彼女の名を今一度、声にした。
 
 
 
 
「ねぇ・・そんなにも…ヒョリンの事が好き?」
俯き、ギュっとスカートを握りしめ、チェギョンが尋ねる。
 
遠く離れても忘れられないほどに、シン君はヒョリンの事が好きなの?
ヒョリンが留学してからはシン君の口からその名が出ることはなかった。
だけど、その事が逆に私を不安にさせた。
婚姻前のシン君との約束
婚姻後の誕生パーティーでは、2人の関係をまざまざと見せつけられ…
そして自信に満ちた笑みを浮かべ、ヒョリンは留学へと旅立った。
私の立ち居る隙など微塵もないとばかりに――
 
会えないのに2人は繋がっている
だけど―― ひとつ屋根の下に住んでいても私達は・・
 
 
 
歩み寄ろう… そう思い声をかけたのに
彼女の口から出た言葉は、そんな僕の気持ちにブレーキをかけた。
「今更・・何を…。」
僕にとっては既に過去の事なのに――
 
 
 
「私ね、見ちゃったの…
 ほら、皇太后様と一緒に
 済州島のテディベア博物館に公務でいったじゃない。
 その時に、カメラを借りにシン君の部屋に入った時に・・」
 
 
一体、何を見たのだろう
 
 
「ヒョリンとの思い出がいっぱい詰まった箱を―――。」
 
 
「 !! 」
あれは処分するにも困って、一纏めに箱に入れたんだ。
ヒョリンが帰国したら、返そうかと―――
 
 
「大事なんだよね・・」
 
涙を流しながらも、確認するように顔をあげたチェギョン。
その清らかな涙にシンは言葉を失った。
 
 
 
沈黙が答えなのだろう
もうこれ以上は何も聞きたくはない。
シン君の口からはやっぱり聞きたくないや…
ヒョリンの事が好きだなんて――
「ねぇ、今年の誕生日は、シン君の傍に居てもいい?」
せめてその日だけは一緒に過ごしたい。
ヒョリンが帰国しているにしても…
来年は、もう一緒に居られない気がするから。
 
 
「―――当り前だ。」
肩においた手を、チェギョンの涙を拭うべく頬へと伸ばそうとするシン。
だが、その手を擦り抜ける様にチェギョンが席を立った。
 
 
「じゃあ、私はパーティーの準備があるから…。」
ウソじゃない
だけど、只、今は此処から逃げ出したい。
『当り前だ――』
これはたぶん…シン君からの最後のプレゼント
私もシン君への最後のプレゼント、頑張って作らなきゃ・・
 
チェギョンは足早に部屋を後にした。
 
 
 
 
 
あれっ… 順番的には浮上するんじゃなかったの?
そう思われていた皆さん
ミアネ~
hyはかなりイケズらしいっす 
どうぞ言いたいことはコメ欄へ
 
期待を裏切った分、皆さんの悲鳴?罵声?をお聞きします<(_ _)>
 
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