シンの車に乗り込み、3人はチェギョンの家へと向かう。
「お兄さんってさ、金持ちなんだね。」
幾分、緊張も解けたのか、車の中をくるりと見渡した後、
チェジュンが後部座席から身を乗り出す様にしてシンに声をかける。
「そうでもないと思うが――。」
「だって、まだ若そうなのに、車、持ってるじゃん!」
「・・・・・・。」
「だけどさぁ・・ その割にはケチだよね…。」
「・・・・
」 【なにっ!】

「ちょっと、チェジュン… あんた・・。」
チェギョンがミラー越しにシンの様子を伺いながら、チェジュンを肘で突く。
「だって、女の子にプレゼントする指輪をオークションで買おうとするんだぜ。
普通なら、給料の3カ月分とかって言うのにさぁ~。」
「それは婚約指輪の話でしょっ!」
「へ・・ そうなのか…」
「でもブタならどう?
万が一、彼氏がいたとしてだなぁ、
プレゼントされた指輪が中古のオークション品って…。」
「それはぁ・・。」少しばかり考えるチェギョン。
ちょっとあり得ないかも…
普通な女子ならそうなのだろうが――
「あっ… でも、好きな人から貰うものなら、なんでも嬉しいんじゃないかしら♪」
シン・チェギョン、恋に憧れる少女のようで―――
「さすがはブタ・・ 血は争えないって言うか――
そんな考えじゃ、父さんみたいな男を捕まえて、母さんみたいに苦労するのがオチだな。」
あり得ないとばかりに大きく首を横にふるチェジュン
「・・・あ・・あんたねぇ~、おチンチンに毛が生えたぐらいのガキに
そんなこと言われたくないわよぉっ!。」
「み・・みたのかよ、変態っ!」
慌てて股間を押さえ、恨めしそうにチェギョンを見るチェジュン。
「見るわけないでしょっ! たとえ話でしょ… まったく・・。」
「はぁっ・・
俺はただ・・彼氏のひとりもいない日照りなブタが、
このまま黒焦げにならないかと心配してやってるだけなのに。」
「はぁ――っ!? そんなの、ノープロブレムよっ!
そのうち、あんたがビックリするくらいのいい男を連れてきてあげるわよ!」
「へぇ~、それは楽しみだな♪」
またしても完全に存在を忘れられた状態のシン。
まぁ、ケチだのなんだのって言われずに済むのはありがたいのだが―――
それにしても世間一般で言う姉弟とはこのようなものなのだろうか・・
自身とヘミョンを思い比べながら、ミラー越しに後部座席の2人を見遣る。
「あっ、次の信号は右ね!」
存在を忘れてるのかと思えば急に指示が飛ぶ
そして、また僕の忘れたかのように姉弟喧嘩が始まる。
なんでオークションに指輪を出品したのか
どうせ隠れてエロ本でも買うつもりだったんだろうとか…
いやいや、ただ筋肉を鍛える為の道具が買いたかっただの・・
あんたの筋肉の為に、食卓の平和は乱せないだの・・
ったく… この僕が単なる運転手か――
シンは口元を片手で軽く覆うと、深いため息をついた。
狭い路地に入り、坂を上るとこの姉弟の家に着く。
「此処が俺んち! お茶ぐらい御馳走するから、うちにあがってよ!」
チェジュンに引き連れられ、シンは門をくぐる。
これが一般家庭か…
密接する家屋・・狭い庭…
シンは辺りを不思議そうに見回した。
「ちょっと、あんたっ!」
あんた? ・・だと?
不機嫌そうに振り返りチェギョンを見たシン。
「靴!」
靴がどうしたんだ?
ふと足元に視線を落とせば、先に入ったチェジュンの靴が脱いである。
もしかして…
その様子をゲラゲラと笑いながらチェジュンがみている。
「お兄さん、もしかして帰国子女?」
「・・・・・・。」
いやはや僕とした事が――
はぁ…非常識な奴だと思われたか
だが、まだ皇太子だとはばれていないようだし・・
申し訳程度に軽く頭を下げたシン
「まぁ… それなら仕方ないけど――
基本的に土足で上がるような習慣は此処には無いから…
あと、家の中では帽子は脱ぐものよ。」
チェギョンはシンの足元を見た後、視線を帽子へと向けた。
「あぁ…。」
仕方なくシンは帽子を脱ぐ。
これで、この2人は僕が皇太子だということに気づくか―――
気づかれたら・・
正直に指輪の件は話すしかないよな…
だが・・
チェジュンもチェギョンも気づくことなく…
「じゃあ、取りあえず此処に座ってよ。」
チェジュンに勧められるままに、シンはリビングと思しき部屋のソファーに腰掛けた。
「姉ちゃん、お茶を入れるついでに指輪を持ってきてよ。」
「でも、何か代わりになるものを先に見つけなくっちゃ・・。」
「あ~~。」少し考えるようにしてチェジュンがシンの方を見る
「ちょっと手にとって見るだけでいいんですか?」
「えぇ…。」 先帝の御印なのか…確認さえできれば、取りあえずはそれでいい。
「じゃあ、ここは俺の筋肉の見せどころだな♪
俺がテーブルを支えてる間に、見てもらえばいいじゃん♪」
ニッと親指を立てたチェジュン。
そういって、訳もわからぬシンを引き連れて、キッチンへと向かう。
「じゃあ、いい? せいのっ!」 チェジュンがテーブルの片側の脚をあげる。
「チェジュン! もう少し上げてくれなきゃ、指が入んないわよ!」
「マジっ… これだから豚足は――。」
「姉ちゃん、なんか道具を使えよ!」
「そうね…。」
チェギョンはキッチンからフライ返しを手にとると、テーブルの脚と床の間を滑らせた
『カン・・』
達磨落としの様に押し出された指輪はシンの脚元へ――
ま・・まさか…
キッチンに連れられてきて、目にした光景はあり得ないものだった。
目をテンにして固まるシン。
「お兄さんっ、早く見てよ! 重いんだからっ!」
「へ・・ あっ… あぁ。」
シンは足元の指輪を手にとり、拾い上げる。
確かに先帝の御印が…
そして――
「もういいっ?」 限界とばかりにチェジュンがシンを見る。
「えっ…。」
まさか―― また、あそこへ戻すのか・・
「あぁっ、もう、貸して!」
そういうや否や、シンの手から指輪をとり戻すと再びテーブルの脚の下へと戻すチェギョン。
「お・・おいっ!」
「なによ… 見るだけって言ったでしょ?」
チェギョンはムッと唇を尖らせて、軽くシンを睨みつける。
「もしかして―― ずっとそんな風に脚台にしているのか・・。」
ワナワナとテーブルの脚を指さすシンの手が震えている。
「そうだけど?」
「・・・・・・。」 シンは右手で眼を覆った。
あり得ないだろう。
祖父の形身で大切にしてるんじゃなかったのか?
先帝が贈られた指輪だぞ!
こうなったら意地でも――
「あの・・」
「ただいま~」 玄関で声がする。
「あら、誰かお客様なの?」
どうやらこの姉弟の両親が帰って来たらしい…
キッチンに顔を見せるなり、僕の姿を見て、母親らしき人はニンマリと微笑み、
父親らしき人は買い物袋をおっとこし、固まった。
バレたか・・ そう思ったが――
「ちょっと、チェギョン… 素敵な彼じゃない♥
さすが、ママの娘よね♪」
「チェギョン… 一体、これは―――。」
いやいや…
さすがはママの娘って…
ママさんが選ばれたのは、その横のパパさんですよね?
その鼻水だか涙だかわかんなくなっちゃってる―――
シンは呆然としてその夫婦を見つめる。
「なに言ってるのよ、ママ!
この人は彼氏でも何でもないわよっ!」
「えぇっ… そうなの?
凄くいい男なのに―――♥ 勿体ない・・」
凄く・・いい男?
その言葉に反応してチェギョンはシンを見る。
確かに… 整ったいい顔よね…
ってか・・どっかで見たことあるような――
首を傾げ、シンの顔をマジマジと見つめる
「あぁ――――――っ!イケ好かない皇太子!」
「「「 !! 」」」
いけ好かない皇太子・・だと?
ヒクりとシンの片眉があがる
「ちょっと、チェギョン、何バカなこと言ってるのよ!
皇太子殿下がうちになんて来るわけがないじゃないの…。」
そういって引きつった笑いを浮かべながら、同意を求める様にシンを見たスンレ。
でも・・確かにそう言われてみれば眼鏡はかけてはいるものの似ているような…
「姉ちゃん・・イケ好かないは言っちゃいけないんじゃない?」
シンの顔色を見ながら、チェジュンが口を挿む。
「イケ好かないものはイケ好かないんだもん・・仕方がないでしょ。」
「だって、性格なんて超最悪なんだから―――。」
「・・・・・
」

なんだ・・この女… 初対面のくせに…
あからさまにムッとするシン
何とも言えない雰囲気にパパにママ… チェジュンは
今、目の前に立つこの男が皇太子だと認識した。
「ちょっと、チェギョン…。」
たしなめる様にスンレは、チェギョンに目配せをするが――
「だって、この間、ちょっとぶつかって、バケツの水を足元にぶっかけたぐらいで
靴を脱ぎ棄てて『捨てておけ』って言ったのよ。
こっちはちゃんと謝って、脚元まで拭いてるっていうのに・・。」
「おまえ・・ あ・・あの時のネズミ…?」
「はっ・・ ネズミ?」
「聞いたでしょ、みんな… 私の事をネズミ扱いよ。」
「イケ好かなくって当然でしょっ!」
「「「 ……。」」」
【確かに――】 3人のジト―っとした視線がシンに突きささる。
「ネズミといったのは、おまえはずっと俯いていて、
僕には、おまえの頭に張り付いたネズミの記憶しか――。」
【馬鹿チェギョン・・】 今度はシラ~っとした3人の視線がチェギョンに注がれる
「と・・とにかく、私はこいつの事はイケ好かないのよっ!」
プイッと3人の視線から逃れる様にそっぽを向いたチェギョン
シンの方も盛大なため息をついて、チェギョンから視線を外した。
「あのぉ・・ こんなところで立ち話もなんですから…。」
そう口を挿んだのは、さっきまでチェギョンが男を連れ込んだと誤解して
涙していたパパだった。
気がつけば…![]()

まぁ、どうしましょ・・って感じですが。
しかもあと一話で纏められるのか?
そこもむっちゃ不安です(激爆)