ひとつ前のお話はこちら
『離婚する・・』 って・・
ユルさんと… 奥さんが?
あの日、出会ったユルの横に立つ綺麗な女性の事をチェギョンは思い出す。
離婚するって事は…
あの人は―――
先輩はどうするのかしら?
かつて将来を共にしようと考えた人が・・
もう誰も愛せない…
それほどまでに好きになった人がひとり身になるって――
やっぱり・・
チェギョンはフルフルと頭を横にふると、
両手で耳を押さえるようにして、その場にしゃがみ込んだ。
「それを言いに来たのか・・ ユル。」
「あぁ…。」
「だが、ジョンアンの事は俺にはもう関係ないことだ。」
「そうみたいだな。」
「だけど… ジョンアンの方はわからない。」
「どういう意味だ?」シンの眉尻が不快感からピクリと上がる。
「あいつは、おまえを頼るかもしれない。」
「馬鹿な・・」 あり得ないとばかりに小さく首を振る。
「だが・・ジョンアンはそういう女だ。」
「何かあったのか――?」
少しばかり辛そうな表情を浮かべたユルを不思議に思ったシン。
「いや… 別に。」
『カチャリ・・』
寝室のドアが開く音がして、シンとユルは話すのをやめた。
暫くしてリビングに姿を見せたチェギョン
「あのぉ… イ先輩。
やっぱり電話じゃ埒が明かないので…
ガンヒョンとあって話をしようと思うので、今日はこれで失礼します。」
「 !! 」
「ちょっと待て――、帰るって言うなら、送るから・・」
だが迂闊にも俺は今、バーボンを手にしてしまった。
「先輩、飲んじゃったんでしょ?」
「それに… お客さんがいらしてるじゃないですか。」
見送りも結構とばかりに、チェギョンはソファーの上のカバンと上着を手にとる。
「まだ電車もありますし、大丈夫ですよ。」
「だが・・。
ユル、悪いが此処で暫く待っていてくれ…
取りあえず通りに出て、タクシーを拾って、こいつを乗せてくるから…」
「あぁ・・気を使わないでくれ。
僕もこれで失礼するから。」
そういうとユルもソファーから腰をあげる。
「なんなら、僕が彼女を送っていこうか?」
「いや、俺が送るから・・」
「ふっ・・そんなに僕は信用がないのか?」
「いや…そういうつもりじゃ・・。」
「冗談さ。」
3人でシンのマンションを出た。
ユルは気を利かせたのか、入口を出たところで、俺達と別れた。
チェギョンと2人・・
「・・で、イ・ガンヒョンは何故、ギョンと別れるって言ってるんだ?」
「えっと・・ 何処で知ったのかわかりませんけど、
今日、チャンさんがお見合いしたこと・・知ってたみたいで…。」
「それで?」
「・・・っと・・ 詳しい事はよくわからないんです。
だから今から会うんです。」
俯きがちに話すチェギョン。
「そうか・・・。」
シンの大きな手がチェギョンの頭をポンっと撫でる。
「おまえはホント、気がいいって言うか・・
ギョン達の事は、おまえのせいでも何でもないんだから、
そんな風におまえが思いつめることはないだろう?」
俯いたまま、チェギョンは首をフルフルと横に振った。
私は別にガンヒョン達のことで、落ち込んでいる訳じゃない。
先輩にウソをついたから…
だから先輩の顔が見られないだけで・・
「ごめんなさい・・。」
「・・・・・・。」
「何に謝ってるんだ?
今日、泊まれなくなった事か・・。」
「別に構わないさ…
ギョン達の事が気になりすぎて、気もそぞろなおまえに傍に居られてもな…。」
気にしなくったっていい――
今日が最後なんじゃない
俺たちは今日から始まるんだ・・ そうだろう?
「・・・・・。」 先輩の優しさが今日は辛い
「おっ…タクシーが来たぞ。」
「早く行ってやれ、イ・ガンヒョンの所へ。」
シンはチェギョンを送り出した。
♢♢♢♢♢
翌日、出勤してくるシンをガンヒョンは待ち伏せる。
「イ先輩・・昨日は、そのぉ・・ご迷惑をおかけしました。」
迷惑をかけたのはガンヒョンではなく、
あくまでもギョンだという認識で話すガンヒョン。
「全くだ…。」 かなり不満がある・・そんな表情をして見せるシン。
謝っているのにあまりに不機嫌そうなシンに、
ガンヒョンは眼鏡を整えながら、小さくため息をついた。
「でも、ちゃんとギョンさんがそっちに向かわないように、
チェギョンから連絡を貰った後、すぐにギョンさんに電話したんですよ。」
「チェギョンとの2人きりの時間の邪魔をさせなかったんだから、
私達はそれぐらいで、許してくれてもいいんじゃないですか?」
「・・!?・・」
なにを言ってるんだ・・イ・ガンヒョン
おまえは昨日…
「今にも押しかけてきそうなギョンさんに
私、一人暮らしじゃないから…来られたら困るって言ったら
それでも、会って話さなきゃ気が済まないって…」
やれやれといった風に視線を宙に向けたガンヒョン。
だが――
暫くして両手を頬にあて、視線をシンに戻すとガンヒョンはニンマリと微笑んだ。
「結局、うちから少し離れたファミレスで会って、話す事になって――。」
「ギョンさん・・正直、先の事はわからないけど、今、好きなのは私だけだからって…。」
「・・・・・・。」
おい・・イ・ガンヒョン… ノロケか・・
いや、俺が聞きたいのはっ…
「先の事はわからないって… 普通は言わないですよね。
だけど、凄くギョンさんらしいっていうか…
それだけで充分かなって… そう思いました。」
スッキリとした表情で話すガンヒョン。
先の事はわからないなんてな…ギョンの奴・・
「かなりいい加減だとは思うが――
イ・ガンヒョン、おまえは、それで充分なのか?」
「えぇ… ウソはないですから。
だから私が好きだっていうのも信じられますし…」
「そうか――。」
そんなものなのか…
「先輩はチェギョンの事、どう思ってるんですか?」
「それは・・・。」
「私に言わなくっていいです。
その言葉は、ちゃんとチェギョンに伝えてあげてくださいね。」
ペコリと頭を下げ、ガンヒョンは先に社内へと消えていった。
ちゃんと伝えてやって下さいか――
だが…
なんで、昨日、チェギョンはウソをついたんだ?
ガンヒョンに会うと・・
ユルに気を使ったのか?
それなら… ユルが帰った時点で話せばいい。
何故だ?
シンの心の中に疑問と不安が広がっていった。