「で・・今の電話はシンから~?」
にへらと笑ってギョンが尋ねた。
「えっと… はい。」
「で、シンはなんだって?」
「へ・・・。」
そう言われてみれば・・・何も言われてないっていうか・・
「今、外なのかって聞かれて、それから…
誰かと一緒なのか・・ 気をつけて帰れよってぐらいで
用件らしいことは何もなかったような―――。」
「へぇ~。」
気にしてたんだ・・シンの奴
俺が男からの電話だって言ったから・・
可愛いねぇ、意外と
「ところで、チャンさん・・
チャンさんって今、仕事中じゃないんですか?」
ハタっと思い出したようにチェギョンが言う。
「あぁ、忘れてた。」
「忘れてたって・・」
「だって可愛い子と話してる方が楽しいし…
それに、誰も呼びに来ないってことは特に問題もないってことでしょ。」
「ダメですっ! ちゃんと仕事はしなくっちゃ!」
さっきまで楽しそうにギョンの話を聞いていたガンヒョンが、
キッと眼鏡を整えながらギョンを見る。
「ガンヒョンさんは厳しいねぇ~。」
救いを求める様にチェギョンを見るギョン。
「ガンヒョンは仕事に対しては厳しいんで…。」
「でもさ、俺の話、楽しかったでしょ?」
ギョンは視線をチェギョンからガンヒョンに移した。
「えぇ・・。」 コクコクと頷くガンヒョン。
「もっと俺の話、聞きたいって思わない?」
「それは―― そう思いますけど・・。
でも、仕事は仕事ですから…大人なんだし、ちゃんと自分の仕事はしなくちゃ
他のスタッフにも迷惑がかかります!」
「それはさ、俺だってよ~くわかってるんだけどさ・・
でも、このまま君と 『はい、さようなら』 ってのはイヤなんだよねぇ。
俺の話ばっかでさ、君のこと、何も聞けてないしさ・・。」
ガンヒョンの真っ直ぐな黒髪の毛先を指で弄ぶように触れるギョン。
「 /////// 」
「仕事終わるまで、待っててよ。」
さっきまでのギョンとは違う
ちょっと大人な甘い香りがする。
そう・・甘いドルチェに隠された洋酒の様に――
コクリと頷いてからガンヒョンはチェギョンの存在を思い出す。
「あっ・・ でも・・・。」
「大丈夫・・ ちょっと待ってて。」
ニッとギョンは微笑むと、ポケットから携帯を取り出した。
「もっしもーし、シン? 俺♪」
ギョンが連絡したのはシンだった。
「なんだ・・ギョン・・」
「おまえ、今、何処?」
「家だ―― 」
「はっは~ん、振られちゃったから、真っ直ぐ、家に帰ったんだ。」
「ウザい… 用がないなら切るぞ・・。」
「あのさぁ、今、2人組の女の子に声かけたんだよね。
おまえ、暇だろ? 今から出て来いよ。」
「おまえ、仕事中だろ… 客、ナンパしてるんじゃねぇよ。」
「ばぁ~か、客だろうがなんだろうが、俺は運命の出会いは大事にするタイプなんでね。
簡単には逃さないつうの!
ダチの頼みなんだぜ、シン・・ 取りあえずでて来いよ。」
「悪いが、もう飲んじまった。」
「じゃあ、車をそっちに向かわせるからさ…。」
「はぁ―――」 盛大なため息をついたシン。
「今日はそういう気分じゃない。」
空気を読めよ、ばかギョン・・
「そうか… じゃあ、仕方ないな・・他を当たるか。」
「ちなみにさ、ちょっと聞くけど・・チェギョンちゃんって、どんな男がタイプなのかな?」
「は・・?」
あの女たらし・・
あの短時間で目をつけたのか…
「おまえみたいなタイプじゃない事は確かだ。」
「へ? そうなのか・・・。」
「あぁ。」
ギョンは受話器を少しばかりずらし、チェギョンの方を見ると、ニンマリと笑って手を振る。
「ねぇ、チェギョンちゃんはどんな男が好き?
好みのタイプを言ってくれたら、俺の知ってる範囲で声掛けるからさ。」
「おいっ、ギョン! どういうことだ!
そこに、あいつがいるのか?」
「え? あぁ。 俺、最初にそう言わなかったっけ?」 惚けるギョン
「俺、彼女のお友達のガンヒョンさんとこの後、ふけちゃおうかと思ってるんだけどさ、
そうなると、チェギョンちゃんひとりになっちゃうだろう。
おまえはチェギョンちゃんと知り合いだし・・と思って、
手っ取り早く、おまえに電話したんだけどさ…気がのらないならしかたないな。
じゃあ、インにでも電話するから――― 」
「お・・おいっ、 お・・・俺が行く――。」
「あれっ・・ シン・・・気が変わったのか・・・
まぁ、いいや、じゃあ、そっちに車を廻す様に手配するから…。」
「その必要はない。
タクシーなら通りに出れば、すぐにひろえる。」
「んじゃ、待ってる・・・ って・・切れちゃってるじゃん。」
通話の切れた携帯を耳から離し、ジッと見つめるギョン。
「ちょ・・ちょっと、チャンさん!
どうしてイ先輩に――― 。」
焦るチェギョン。
さすがに今日はもう逢いたくはない。
それに、チャンさんだって、そう思ったからイ先輩にウソまでついてくれたんじゃ・・
「避けては通れないでしょ… 同じ会社なんだし・・。
それにさ、チェギョンちゃんはシンと寝たこと、後悔してないんだよね?」
「後悔はしていません。
でも、嫌われたくないんです。
これからも職場では顔をあわせていかなきゃならないし…」
「じゃあ、チェギョンちゃんはただの思い出作りのためにシンと寝た訳か・・・
まぁ、シンはいい男だしな・・ 」
「違いますっ!」
「私はずっとイ先輩の事が好きで―――。」
「その気持ち、シンには伝えた?」
「へ・・・」
小さく首を横に振るチェギョン。
「だってイ先輩は恋愛や結婚なんて興味がなくって…
大人な女の人が好きだって・・。」
もっぱら社内ではそう噂されてた
「第一に、私はイ先輩を困らせたくないんです!」
「それで聞きわけのいい、いい子ちゃんを演じてるの・・チェギョンちゃんは・・。
じゃあ、シンが望めばセフレだけの関係でもいい―― そう思って寝たのか?」
「それは―――。」
イヤだ
チェギョンの頬に涙が伝う。
「困らせてやればいいんだよ… シンみたいな奴はさ。」
「でも・・。」
「っていうか…、既にあいつはパニクってるけどね。」 ニッとギョンが笑う。
「ねぇ、チェギョンちゃん、もう一度、シンを押し倒してみたら?」
「 !! 」 な・・なにを―――
「そうね・・ チェギョン、もう一度押し倒しちゃいなさいよ!」
ジッと黙って聞いていたガンヒョンが口を開いた。
「ガンヒョンっ!」
「1度も2度も一緒よ、チェギョン!」
ううん… 違う・・ きっと2度目はイ先輩の本音がみえる筈だわ。
たぶん、ギョンさんはそれがわかって・・・
ガンヒョンの中でギョンに対する興味が、少しずつ好意へと変わっていた。