ひとつ前のお話はこちら
いたって順調なシンチェ・・
さてギョン君を救うべく頑張りましょうかね(激爆)
いったい何曲ぐらい歌ったんだろう…
ガンヒョンはデンモクをひとり握りしめ、一人、歌い続けた。
私にデンモクを譲らないあたりは冷静だった・・そう言えるのかもしれないけど・・
少しばかり気は晴れたのか、漸くガンヒョンはマイクを置いた。
「ごめんね、チェギョン… つき合わせちゃって・・。
おかげで少しはすっきりしたわ。」
「ガンヒョン… あのね・・」
言いかけたチェギョンの言葉を遮る様に、ガンヒョンは席を立った。
「さてと、急いで帰らなくっちゃ・・
今日まで遅くなったら、アッパに怒られちゃうもの。」
「あ・・ そうだね…。」
チェギョンは壁にかかった時計に目を向ける。
ガンヒョンの家は週末は家族そろっての食事が定番で、
チェギョン自身、一人暮らしだからと何度か、食事の席にも招かれたことがある。
本当なら、この後、ギョンさんの店にでも―― そう思ったんだけど・・
チェギョンは続く言葉を飲み込んで、コートとカバンを手にとった。
駅でガンヒョンと別れた後、チェギョンの脚はriunioneへと向かう。
よくよく考えたら、ガンヒョンと一緒ではなく、
私がひとりでギョンさんに聞いた方がいいんじゃないか・・そう思って…
でもさすがは週末
店の外にまで待っている人がいる
はぁ・・・これじゃあ、無理よね…
列に並んでみたものの・・
「お客様は何名様ですか?」 店員がチェギョンに声をかけた。
「えっと・・ ひとり・・です。」
「おひとりですか・・。」 店員が意外だと言わんばかりに聞きかえす。
コクリと頷いたチェギョン。
確かに女の子のグループもいるけど、基本、カップルが多いみたい…
週末、女が一人って…どんだけ寂しいんだって思われてたりするのかな?
そんな事を考え、チェギョンは首を竦めた。
「カウンター席が空いておりますので、先にご案内いたしますね。」
「はぁ・・。」
ちょっぴりラッキーだったかも…
でも、周りの子の視線が同情的なのは気のせいではない感じ・・
店内に案内された。
空いていたのは、いつものガンヒョンの指定席…
「あれっ・・ チェギョンちゃん・・?」
カウンター越し、チェギョンの存在に気づいたギョンが不思議そうに声をかける。
「こんばんは・・。」
ぺこりと軽く会釈をするチェギョン。
「どうしたの? ひとり・・だよね?」 キョロキョロと辺りを見回すギョン。
「えぇ… ちょっと・・。」
「なに… なんか言いにくい事?」
「・・・・・・。」
確かに、此処に来たのはいいけど
こんな話をするのは場違いな気もするし…
「もしかして、シンの変な性癖に悩まされてるとか?」
「ふぇっ・・」
「違いますっ! イ先輩はいたってノーマルだと・・」
「・・・・ぷぷぷ・・」 口元を押さえ笑いを堪えるギョン。
「 /////// 」
な・・何を私ったら・・大きな声で…
「奥の部屋に行く?」
ギョンがオーナールームのある方に視線を向ける。
「・・いいですか?」
「もちろん♪ このまま此処じゃあ、チェギョンちゃんも居辛いだろうしね。」
ニッと笑って、ギョンはフロアマネージャーに一声だけかけると
チェギョンと共にオーナールームに向かう。
「さて… 料理はどうする?
俺に任せてくれる?」
「えぇ・・。」
「飲み物は――
アルコールじゃなくっていいよね。」
「へ…。」
「ほら…2人きりで飲ませたとなると、シンに怒られそうだからね。」
「はぁ・・・。」
そう言えば、昨日、先輩も言ってたよね
外で飲むのは禁止って…
「で、今日は俺に聞きたいことがあるから、一人で此処に来たんでしょ?」
「だけど、シンの事なら… 話せることもあれば話せないこともあるから――。」
ギョンは最初に警戒したのか、ひと言、チェギョンに断りを入れた。
「・・・・・。」
ギョンさんって、本当にイ先輩と仲がいいんだ…
だけど話せない事って・・
気になりながらもチェギョンは真っ直ぐにギョンを見た。
「今日はイ先輩の事じゃなくって、ガンヒョンの事で話したくって此処に来たんです。」
「ガンヒョンの事で・・?」
意外とばかりにギョンは軽く首を傾げた。
「えぇ・・ ガンヒョンの事です。」
「わかった…
じゃあ、俺はオーダーを伝えてくるから、少しだけ待っててくれるかな。」
そういうとギョンはチェギョンに席に着く様に促した。
暫くして、ギョンは部屋に戻ってきた。
チェギョンの前の席に腰を下ろすと単刀直入に尋ねてきた。
「で・・ ガンヒョンの事って何?」
「あのぉ――
な・・なんでギョンさんは昨日、ガンヒョンと―――。」
言いかけて、どう表現していいかわからなくなり口ごもるチェギョン。
だが、こんな時のギョンは鈍感というか――
「昨日のことで、ガンヒョンがなんか言ってたの?」
「もしかしてまた別れるとか言ってるとか?」
「いえ・・そうじゃなくって…。」
「うわぁ~、じゃあ、また、俺、何かドジっちゃったのか――!」
クシャクシャっと頭をかいた後、テーブルに突っ伏して頭を抱えるギョン。
「マジで、俺、何をやらかしたんだ?」
「あの・・別にドジったわけではない様な…。」
「じゃあ、何をやらかしたんだ?」
「やらかしたような… やらかしてない様な・・。」
困った風に眉を下げたチェギョン。
「チェギョンちゃんっ、それじゃあ、どっちなのかわかんないじゃん!」
グイッとテーブルから身を乗り出すように、チェギョンに詰め寄るギョン。
「えっと…。」
普段は超大人な感じのギョンさんなのに…こんなにとり乱しちゃって…
必死なギョンの眼差しに意を決した様にチェギョンは息をすうっと吸い込んだ。
「どうして昨日、ガンヒョンとHしなかったんですかっ!」
「・・・・・・ へ・・・ えぇ―――――っ!」
予想外のチェギョンのひと言に面食らうギョン。
「ちょ・・ちょっと待って…チェギョンちゃん・・
それってHしなかったことを責めてるわけ・・?」
俯きがちにコクリと頷いたチェギョン。
「少なくとも・・ガンヒョンは・・・。」
「ギョンさんは私の事なんて好きじゃないんだって…。」
「マジかよ…。」
「うわぁ―――
俺、昨日、すっげぇ理性を総動員させてだなぁ――。」
「ギョンさん?」
「俺、マンションの前でガンヒョンに頬をぶたれたんだよ…。」
「へ・・」 ガンヒョンが? ギョンさんの頬をぶったの?
「変な話だけど、その時、この子だけは大事にしなきゃ・・ そう思ったんだ。
いい加減な事は許されないって…。」
「いい加減な事って… 気もないのにHする…って事ですか?」
「それは当り前じゃないですかっ!」
「そうじゃない!
気持ちはあっても、そういうことはしちゃいけない・・そう思ったんだ。」
「へ・・・。」
「ガンヒョンとは出会ってまだ1カ月と少しだけどさ、
俺は運命の人だと感じたんだ。」
「それって…。」
「生涯を共にしたい・・そう思ってる。」
「ギョンさん・・。」
じゃあ、ガンヒョンの事が特別だったから…
「だから、ガンヒョンさんのバージンをそう簡単に奪うわけには――。」
「・・・・・。」
目が点になり固まるチェギョン。
えっと… 今、ギョンさん、ガンヒョンの事、処女だって・・
私の知るところでは、ガンヒョンは…
ガンヒョンはそんなところでウソをつくような人間じゃないし…
これはきっとギョンさんの思いこみなんだろうなぁとは思うけど・・
「あはっ・・」 ギョンと眼があい、チェギョンは苦笑いを浮かべ、誤魔化した。
そんなチェギョンの表情を見て、ギョンは
「あっ・・別にチェギョンちゃんはチェギョンちゃんだからね…。
まぁ、相手も… あのシンだしな・・」
「・・・・・・。」
それってどういう意味なのかしら?
全然フォローになってないっていうか――
まぁ・・確かに私達は身体の関係から始まっちゃったけど…
でも、取りあえずはギョンさんがガンヒョンの事を大事に思ってることはわかった。
まぁ、若干・・問題がないとはいえなくもないけど…
「じゃあ、ガンヒョンには私がそれとなく伝えておきますね。
ギョンさんは気がなかったんじゃなくて、大事に思ってたからこそだって・・。」
「いや… チェギョンちゃんの口からは何も言わないでくれるかな。」
「???」
「俺、近々、ガンヒョンにプロポーズするから――
俺の口から、ちゃんと気持ちを伝えて、誤解は解きたいんだ。」
さっきまでのアタフタと取り乱していたギョンの姿はそこには無かった。
「わかりました。」 大きく頷いたチェギョン。
いいなぁ…ガンヒョン。
好きな人と一生を共にできるなんて♥
プロポーズか・・
まだ付き合い始めたばかりだけど、いつの日か――
チェギョンはシンの姿を思い浮かべていた。